反応中間体(読み)ハンノウチュウカンタイ(その他表記)reaction intermediate

デジタル大辞泉 「反応中間体」の意味・読み・例文・類語

はんのう‐ちゅうかんたい〔ハンオウ‐〕【反応中間体】

一連化学反応が連続して起こるとき、最初反応物から最終的な生成物に至る過程で生じる物質中間生成物

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「反応中間体」の意味・わかりやすい解説

反応中間体 (はんのうちゅうかんたい)
reaction intermediate

化学反応が進むとき反応物と生成物の途中に生成する化学種を反応中間体または中間体という。たとえば,塩素分子Cl2水素分子H2の混合気体から塩化水素分子HCl気体を生ずる爆発反応はふつう式(1)のように書かれる。

 Cl2+H2=2HCl   ……(1) 

しかし,反応が実際にどのように進んでいるかという反応機構を調べた結果,次のようなことが結論されている。すなわち,反応が進んでいる混合気体中では,塩素原子Clや水素原子Hのような反応中間体が,反応式(2)や(3)のようなものとなる素反応に従って反応を進め,最終的には式(1)の反応が起きている。

 Cl+H2─→HCl+H   ……(2) 

 H+Cl2─→HCl+Cl   ……(3) 

式(2)と式(3)の過程は交互に起こり,連鎖的に反応が進むので爆発反応となる。ただし,式(2)の素反応を開始する塩素原子は,塩素分子の光分解や熱分解などによって生成しなければならない。

 2種類またはそれ以上の安定な化合物が反応して生成物を与える化学反応においては,反応物である原子や分子全部が衝突し同時に生成物が生成する例は一般的にまれである。福井謙一フロンティア電子理論によってみごとに説明がつけられているディールス=アルダー反応のような協奏的に起こるといわれている反応がその例である。ところが,多くの化学反応は,H2+Cl2の反応におけるように,反応中間体が介在して二つ以上の素反応から成り立つ複合反応である。反応中間体には,安定な分子結合が切れて生ずる水素H,酸素O,塩素Cl,臭素Brなどの(遊離)原子や,OH,NH2,CH3,CH3COなどの遊離基,および水やアルコールのような極性溶媒中での正負の電荷を帯びた各種イオンのように非常に反応性が高い,すなわち不安定な化学種が多い。反応中間体は,反応機構を調べた結果その存在が推論されるものも多いが,最近の高感度検出法の発達によって直接的にその存在が確認されることも多くなった。たとえば,上記の遊離基は気相中では原子共鳴蛍光法やレーザー誘起蛍光法,赤外吸収分光法その他の方法で確認されている。現在では,HやClといった遊離原子のみを,光分解やマイクロ波放電などの方法で生成し,式(2)や式(3)の素反応の速度定数を別々に測定することが行われており,反応中間体の存在は現実のものとなった。しかし,実際に起こる水素の燃焼反応では,反応式自体は2H2+O2=2H2Oと簡単であるが,H,O,OH,HO2,H2O2などの多くの中間体が関与して起こる複雑な複合反応であるので,反応の全機構が不明なことも多い。

 溶液反応では,電子磁気共鳴吸収法などの分光法によって中間体が検出されているが,2Hや13Cや18Oなどの同位元素で標識した同位体分子を用いて,反応機構を決定することがある。たとえば,ポラーニPolányi Mihály(1891-1976)らは1934年に,酢酸アミル加水分解において,18Oで標識した水18OH2を用いた実験を行い,18Oが入ったアミルアルコールができないことから,切断される結合は,C-OC5H11であることを初めて確かめた。

このように反応中間体は,実際の化学反応を進める陰の主役であるともいえる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「反応中間体」の解説

反応中間体
ハンノウチュウカンタイ
reaction intermediate, intermediate product

中間生成物ともいう.化学反応で反応物から生成物に至る過程で生成する物質をいう.普通,化学反応式で表示される反応は,ただ一つの素反応で完結されることは少なく,一連の素反応が連続して起こることによってはじめて最終生成物に至る.各素反応の結果生じる物質は最終生成物を除いて,すべて反応中間体である.反応中間体にはアルコールがカルボン酸に酸化される途中に生じるアルデヒドのように,安定な分子として取り出せるものもあるが,種々の物理的手段を用いて確認されるか,あるいは反応論的に推定される不安定なものも多い.なお,広義には活性錯体を反応中間体に含めていうこともある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の反応中間体の言及

【化学反応】より

…通常の化学反応式は,反応の起こる前と完了した後の正味の変化のしかたのみを示すもので,総括反応式とも呼ばれる。反応機構には総括反応式には現れない化学種が含まれるが,それらは反応中間体と呼ばれ,多くは比較的不安定な物質である。反応機構は,広い条件にわたる反応速度の測定・解析,反応中間体の検出・確認などの手法によって総合的に解明される。…

【反応速度】より

… Br2⇄2Br  ……(i)  Br+H2⇄HBr+H  ……(ii)  H+Br2⇄HBr+Br  ……(iii) ここでBrは臭素原子,Hは水素原子であり,これらは反応物のH2やBr2,生成物のHBrに比べて非常に不安定であるが,反応が進んでいる過程で微量ではあるが生成し,反応を進める仲介となる。このような化学種を反応中間体という。反応が一定速度で進んでいるとき,これらの反応中間体の濃度はほぼ一定に保たれている。…

【有機化学反応】より

…反応の各段階は一般に異なる速度で進行するが,上の例では第1段階(式(12))の反応速度が遅く,全反応速度はこの段階によって規定されるので,反応の律速段階rate determining stepという。反応の経過に際して生じるE,F,Gが実際に単離可能である場合,これらは反応中間体という。E,F,Gが高い反応性のためごく短寿命で,その結果単離はできないがその存在を証明しうる場合,これらは遷移状態transition statesと呼ばれる。…

※「反応中間体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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