改訂新版 世界大百科事典 「カンバ族」の意味・わかりやすい解説
カンバ族 (カンバぞく)
Kamba
東アフリカ,ケニアの首都ナイロビの東方に広がるサバンナ地帯に住み,バントゥー語系の言語を話す部族。人口は約170万(1979)。16世紀前半から後半にかけてタンザニア北東部からこの土地に移動して来た。隣接部族キクユと文化的によく似ている。伝統的な生業としての農業に加えて,牛,羊,ヤギの飼育も重要である。おもな農作物はシコクビエ,コーリャン,トウモロコシである。近年の人口増加と土地の疲弊,それにケニア全体の産業化のために,現在はナイロビ周辺に住むカンバ族の数も多い。カンバ社会の基本集団は一夫多妻婚による父系家族集団である。この基本集団はそれぞれ家,家畜小屋,畑,牧草地からなる空間をもつ。カンバは約25の父系クランに分かれており,各クランが3ないし4のサブ・クランに分節し,さらにサブ・クランが家族集団へと分節している。カンバ全体を統合する社会組織や中央集権的な政治制度はみられない。かつては親族集団内の年長の男たちが地域の指導者になっていたが,ケニアの植民地時代と独立後は,そうした地位は政府任命のチーフによって受け継がれている。同じクランの成員間の結婚は禁じられている。嫁入婚に際しては,牛,羊,ヤギなどの家畜と現金からなる花嫁代償(婚資)が花婿の側から花嫁の親族に支払われる。カンバ社会における忌避関係と冗談関係は,日常生活の諸活動に深く根をはっている。忌避関係は尊敬と畏敬を基調とする親子の間にみられ,とくに性を異にする父と娘,母と息子は互いに身体接触を避け,性的な会話をかわしてはならない。こうした隣接世代間の忌避行動は義理の親子間にもみられる。このため夫の両親も妻の両親も夫婦の家に立ち入ることを禁止されており,なかでも夫と義母は同じ道でのすれちがいを避けるほど忌避の度合が強い。反対に冗談関係は対等と友愛の関係にあるとされる同世代の者どうし,および祖父母と孫の間にみられる。彼らの間では互いに相手を罵倒し,中傷することがかえって友情の表現とみなされる。カンバの宗教は,神(ヌガイNgai)を信仰し祖先崇拝を行うキクユの宗教に似ている。伝統的な呪術や妖術の信仰もまだ根強く残っているが,ほとんどのカンバは現在では,少なくとも名目的なキリスト教信者になっている。
執筆者:松園 万亀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報