カーリン(読み)かーりん(英語表記)John Currin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーリン」の意味・わかりやすい解説

カーリン
かーりん
John Currin
(1962― )

アメリカの画家コロラド州で生まれる。エール大学でM. F. A. (美術修士号)を取得。写真を用いたアプロプリエーションインスタレーション全盛で、絵画が保守的な表現と考えられていた1980年代の終わりから作品を発表する。初期作品は、ノーマン・ロックウェルNorman Rockwell(1894―1978)のイラストレーションとリアリズム絵画を組み合わせたような具象絵画で、デフォルメされた形態や悪趣味や幼稚さを誇張した表現は、大衆芸術とも、アプロプリエーションとも違う新しい具象表現として印象づけた。1992年のアンドレア・ローゼン・ギャラリー(ニューヨーク)における個展は、明らかなばかばかしさを装うことで、絵画芸術の行きづまりの宣言、あるいは1990年代初めに流行していた政治的なメッセージをもち、芸術を皮肉る行為とも解釈された。

 1990年代なかば以降は、北方ルネサンス(ドイツ、オランダベルギーなどの15~16世紀美術をさす。ファン・アイク兄弟デューラーなどが代表的画家)、マニエリスムロココといった、美術史で周縁とされている絵画様式の特徴を巧みに取り込みながら、現代の風俗を映した具象スタイルをつくった。女性のヌードや肖像画がしばしば描かれたが、『ハネムーン・ヌード』(1998)や『スノー・ボー』(1999)のように、そこに描かれたのは、レンブラントルーベンスクラナハパルミジアニーノの作品を引用しながら、現代の女性の表情やピンナップ・モデルのポーズを取り込んだ折衷的な女性像だった。2002年のインタビューでカーリンが述べたように、モダニズム以降の欧米の具象絵画が高等芸術として機能し続けるために、美術史の外や周縁にある「キッチュ」なイメージを取り入れざるをえなかった20世紀の絵画史への皮肉なまなざしと、堕落した形であれ西欧絵画の伝統を引き継ごうとする意志がある。

 その「キッチュ」を批判的に自己の芸術に組み入れ、カーリンの絵画は現代美術における1990年代後半の具象絵画の流行を牽引(けんいん)した。そのことを強く印象づけたのが、エリザベスペイトン、リュック・タイマンスとの三人展「プロジェクト60」(1997年。ニューヨーク近代美術館)、「ポップ・シュルレアリスム」展(1998年。アルドリッチ現代美術館、コネティカット)、「親愛なる画家たち」展(2002年。ポンピドー・センター、パリ)などである。とりわけ「親愛なる画家たち」展は、カーリン、タイマンス、ペイトン、カイ・オルトフKai Althoff(1966― )、ネオ・ラウヒNeo Rauch(1960― )らの奇妙な具象画を、フランシス・ピカビアの1940年代のヌード作品を祖とする「キッチュ」にもとづく絵画の系譜において評価するものだった。

[松井みどり]

『「ジョン・カーリン・インタビュー」(『美術手帖』2003年3月号所収・美術出版社)』『Brian d'AmatoJohn Currin; Girls Camp (in Flash Art International, Vol. 25, no. 165, 1992, Flash Art International, New York)』『Christopher KnightYoung Artist Hobnobs with the Old Masters (in Los Angeles Times, 15 February 1999)』

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