日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラナハ」の意味・わかりやすい解説
クラナハ
くらなは
Lucus Cranach der Ältere
(1472―1553)
ドイツの画家。オーベルフランケンのクローナハの画家の家系に生まれ、ワイマールで没した。ドナウ派の影響を受け、同時代ではアルトドルファーおよびグリューネワルトからの刺激が大きいとされる。1503~04年ウィーンに住み、05年以後ザクセン選帝侯フリードリヒの宮廷画家となり、ウィッテンベルクに大きな工房を構えた。08年フランドルを旅行し、マサイスの影響を受けた。37~44年ウィッテンベルクの市長を務めたが、晩年フリードリヒ侯に従ってワイマールに移った。またルターの友人として宗教改革の理念に奉仕し、改革の文書や聖書の挿絵を木版で制作、ルターをはじめ改革運動の推進者の肖像を描いた。宗教画では『キリスト磔刑(たっけい)』(ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク蔵)、肖像画では『ザクセン侯ヨハン』(ドレスデン絵画館)が代表作で、ゴシックの神秘感に満ちた画風は、北欧絵画の伝統を強く残している。この画風で異教的なテーマにも筆を染め、『風景の中のビーナス』(ルーブル美術館)のような特異な女性裸像も描いている。晩年の『青春の泉』(ベルリン国立美術館)は空想的な寓意(ぐうい)画で、彼の作域の広さを物語っている。同名の息子も画家であるため、彼の姓には「大」または「父」の称をつけてよばれる。
[野村太郎]
『海津忠雄編『世界の素描8 クラナハ』(1978・講談社)』