家庭医学館 「がんの内視鏡療法」の解説
がんのないしきょうりょうほう【がんの内視鏡療法】
胃や大腸の検査に用いられるファイバースコープや肝臓(かんぞう)の検査に用いられる腹腔鏡(ふくくうきょう)などを使って、開腹手術をせずに体内のがんの病変部を切除する治療法です。この方法は、外科手術に比べてからだに大きな負担をかけることもなく手術ができ、場合によっては、短期の入院、または外来でその日のうちにすませることもあるなど、利点があります。
早期に発見されたがんであれば、がん全体を切除して治すことが可能です。また、本来は手術が最善でも、患者さんが高齢であったり、重症の合併症があって手術が危険な場合や、患者さんが手術を拒否した場合なども、次善の策として行なわれます。
また、進行がんや末期がんで手術によって根治(こんじ)することはできない場合でも、内視鏡による治療によって延命(えんめい)に役立ったり、苦痛を和らげ、できるだけ満足な生活が送れるような効果が得られます。
◎早期がんの治療
●ファイバースコープによる治療
胃がんでは、検査法の進歩によって約50%が早期がんの状態で見つかっています。そのうち、がん病変部の大きさが2cm以下でリンパ節への転移(てんい)がないことなどが明らかであれば、内視鏡治療によって根治できるとされています。
治療法は、胃粘膜部(いねんまくぶ)のがんを内視鏡の先端から出した輪状の針金(スネアー)で、高周波電流を用いて切除します。最近では、切除された病変部を回収して病理組織学的に調べ、がん細胞が完全に切除されたかどうかが判定できる内視鏡的粘膜切除法(ないしきょうてきねんまくせつじょほう)が、おもに行なわれています。
そのほか、「がんのレーザー療法」で述べるように、内視鏡レーザーでがん細胞を焼き切る場合もあります。
食道がんや大腸(だいちょう)がんの場合も、同じようにがんがまだ小さく、転移がないことが確認されれば、内視鏡治療によってがん細胞を切除します。
●腹腔鏡下(ふくくうきょうか)、その他の内視鏡治療
腹部や胸部にあけた小さな孔(あな)から、先端にレンズのついた細い管を刺し入れ、体外から病変部を観察しながら切除します。胃や腸、肝臓、子宮(しきゅう)などの腹部のがんの場合は腹腔鏡、肺の場合は胸腔鏡(きょうくうきょう)が使われます。
そのほか、膀胱(ぼうこう)がんにも膀胱鏡を尿道(にょうどう)から挿入して、高周波の電気メスやレーザーでがんを切除する治療法が行なわれ、前立腺(ぜんりつせん)がんに対しても同じような内視鏡治療が治癒(ちゆ)可能な療法として行なわれています。
いずれも、がんの早期であるか、他に転移していないかなど、内視鏡治療を行なうための条件に合っているかどうか診断されてから実施されます。
◎進行がん・末期がんの治療
●食道のがん性狭窄部(きょうさくぶ)の治療
進行した食道がんのため食道が狭くなって飲食物が通らない場合、内視鏡によって、食道の狭窄部をバルーン(風船)などの拡張器具を使って広げたり、代用食道となる短い管を設置したり、レーザーを用いたりして狭窄部を開通する治療を行ないます。
また、食道がんや胃がんなどが進行して、どうしても口から食べ物を摂取できない状態になったとき、内視鏡によって、腹部にあけた小さな孔から胃や腸の中へ直接管を通して高カロリーの栄養を送る内視鏡的胃瘻(いろう)造設術などが行なわれます。
●胆道(たんどう)のがん性狭窄部の治療
胆道ががんのため狭くなる胆道がん性狭窄の場合には、肝臓から出る胆汁(たんじゅう)がつまってしまって黄疸(おうだん)になるのを防ぐために、狭窄部を広げて短い管を設置し、胆汁の通り道をつくってやる方法があります。
これには、口から十二指腸(じゅうにしちょう)まで挿入した内視鏡の先端からカテーテル(細い管)を出し、十二指腸乳頭(にゅうとう)という部位から肝臓側へ通して管を設置する方法と、肝臓に体外から針を刺して胆道内にカテーテルや内視鏡を挿入して設置する方法があります。