日本大百科全書(ニッポニカ) 「キッシンジャー」の意味・わかりやすい解説
キッシンジャー
きっしんじゃー
Henry Alfred Kissinger
(1923―2023)
アメリカの政治学者、政治家。ドイツに生まれ、1938年アメリカに移住。1954年にハーバード大学で博士号を得る。1962年より同大学の外交政策担当教授。その間『核兵器と外交政策』を発表し、核兵器の選択的使用による核戦略の多様化を提唱して、大量報復戦略が主流であった当時の戦略論議に一石を投じ、戦略理論家として注目を集める。以後ロックフェラー財団や政界との関係を深めた。
1969年からニクソン大統領の安全保障問題担当補佐官となり、ベトナム戦争の「名誉ある」終結と、米ソ中三大国の勢力均衡による国際秩序維持に努めた。卓越した交渉力と自己への権限集中、そして極度の秘密主義を外交のスタイルとして、対中国関係の打開(1971年7月極秘裏に訪中、翌1972年2月のニクソン訪中を決めた)、さらには1972年5月のニクソン訪ソなどを実現。中ソ対立を最大限に利用しつつ、米中接近と米ソ・デタントをてことして、1973年にはベトナム和平協定を成立させた。しかし一方では、交渉中にもアメリカの立場を有利にするとみれば、武力行使(北爆など)をためらわず、国際世論の批判を招き、また大統領府への外交権限の集中によって国務省との対立を引き起こした。1973年からは国務長官となり、フォード政権にも留任して、この間、中東情勢の安定化に努力した。1977年に国務省を去ったのちも、国際政治の研究と評論に広く活躍し、冷戦終結後の世界で、アメリカはヨーロッパ、日本、中国など多くの力に対応せざるをえず、アメリカの支配力には限界があるなどと警告。核武装の可能性も含めて今後日本は国家主義的になる、といった指摘でも話題になった。『回顧録』は一級の外交史料と評価されている。1973年ノーベル平和賞受賞。
[遠藤雅己・村松泰雄]
『キッシンジャー著、桃井眞監修、斎藤彌三郎他訳『キッシンジャー秘録』全5巻(1980・小学館)』▽『キッシンジャー著、桃井眞監修、読売新聞調査研究本部訳『キッシンジャー激動の時代』全3巻(1982・小学館)』▽『キッシンジャー著、岡崎久彦監訳『外交』上下(1996・日本経済新聞出版社)』