キャピタル・ゲイン課税(読み)きゃぴたるげいんかぜい(その他表記)taxation of capital gains

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キャピタル・ゲイン課税」の意味・わかりやすい解説

キャピタル・ゲイン課税
きゃぴたるげいんかぜい
taxation of capital gains

保有資産価値の増大から生ずる利得キャピタル・ゲイン)に対する課税のこと。現代の先進諸国において所得税の重要性はきわめて高いものになってきているが、このキャピタル・ゲインに対する課税がもっともやっかいな点の一つとなっている。多くの経済学者の支持する所得概念に純資産増加説という考え方があり、これによると、ある個人の所得とは、一定期間中に消費した財・サービスの価値と、同期間中に増加した資産の価値額との合計であるとされる。この所得概念を採用するならば、保有資産の価値の増大から生ずるキャピタル・ゲインは、明らかに所得とみなされる。しかも資産を譲渡することによりこのキャピタル・ゲインが実現した場合のみならず、発生しただけで未実現の場合にも、所得が生じたとみなされ課税されることになるのである。しかし、キャピタル・ゲインは他の形態の所得とは性格が異なるという理由で、課税対象にしていない国が多い。実現されたキャピタル・ゲインについてさえも、課税に反対する意見が多いが、それらの理由として、キャピタル・ゲインは一時的、偶発的、かつ不規則的性格が強いということや、長期間にわたって発生するものだから実現した年度に累進税率を適用して課税するのは過酷であるということ、資産価値の上昇というのはただ一般的物価上昇を反映するのみであり、利得というのは幻想にすぎないという点などがあげられる。未実現のキャピタル・ゲインについては、実現するまでは本当にそれが生じているのか確信をもてるわけでないこと、納税に必要な現金がまだ手に入っていないこと、未実現のままにしておくというのは保有者が消費を抑えていることを意味し、貯蓄や投資の促進のためには課税すべきでないこと、などの理由によって、それに対する課税は反対を受けてきた。

 しかし、近年になって、ようやくキャピタル・ゲインの課税も、しだいに導入されるようになってきた。既述の反対理由は理論的にも十分に反論可能であり、キャピタル・ゲインが他の所得と同様に担税力を有することが認められてきている。一時的、偶発的、不規則的性格を有するのは事実であっても、納税者の担税力を高めるのは確かであり、多年度にわたる発生という側面は、適切な平準化措置を講ずることにより対応できる。また、未実現状態にとどめておくというのは、実現可能にもかかわらず未実現状態を選好したということであり、その種の選好をとくに税制上優遇する根拠はないともいえる。

 日本の所得税における譲渡所得というのは、実現されたキャピタル・ゲインである。長期にわたる発生という特性にかんがみて、譲渡した資産の保有期間が5年を超えているか否かによって長期譲渡所得短期譲渡所得とに分けられ、前者についてはその2分の1のみを課税対象にしている。また、土地、建物等にかかわる譲渡所得については、分離課税の形で課税されている。譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超えていたか否かによって長期譲渡所得と短期譲渡所得とに区分され、前者には特別控除が適用されるとともに税率も20%(所得税15%、住民税5%)と短期の場合の39%(所得税30%、住民税9%)の約半分となっている。なお、有価証券譲渡益であるが、金融商品取引業者等を通じた上場株式などについては、2003年度から2011年度までは譲渡所得税の10%(所得税7%、住民税3%)、2012年度以降は20%(所得税15%、住民税5%)で申告分離課税される。

 近年、個人課税についても所得税から消費税への移行が検討されており、フラット・タックスとかUSA税(unlimited savings allowance、無制限貯蓄控除税)が提案されているが、その理由の一つはキャピタル・ゲインという所得に対する課税の困難さにある。理論的にはキャピタル・ゲイン発生の段階で課税すべきであるが、税務行政上の困難さのゆえに、実現時にのみ課税されるのが一般的である。また物価変動に伴う実質価値の変化の扱いには、むずかしい理論的および実践的問題が伴う。消費課税においては、キャッシュの貯蓄と、貯蓄からのキャッシュの引出しのみが課税消費額の計算に関係するのであり、資金ポートフォリオの市場価値の変動は関係ない。また、すべて現在のキャッシュ額で表現するから、インフレ調整のような、過去と現在の額を比較するようなめんどうな問題はおこらず、所得課税のもとではめんどうであるキャピタル・ゲイン課税問題が、消費課税のもとでは解消する。

[林 正寿]

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改訂新版 世界大百科事典 「キャピタル・ゲイン課税」の意味・わかりやすい解説

キャピタル・ゲイン課税 (キャピタルゲインかぜい)

資産価値の増加から生ずる利得を,有価証券の配当および利子収入であるインカム・ゲインincome gainに対し,キャピタル・ゲインcapital gainと呼び,資本利得という訳語が一般的である。日本の所得税法では譲渡所得という用語が使われている。租税負担率のますます高まりつつある先進福祉国家において,租税負担の公平に対する要求は強くなってきているが,キャピタル・ゲインに対する課税はつねに大きな争点を形成している。納税者の租税の負担能力の指標として今日最も一般的に採用されるのは所得であるが,所得の概念は必ずしも明確ではない。経済学者に最も支持されている所得の概念に純資産増加説があるが,これによるならば,所得は,ある一定期間中に納税者が消費した財やサービスの価値と同期間中に発生した資産の価値の純増加額との合計である。この所得の概念はきわめて包括的であり,実現したキャピタル・ゲインのみならず,発生はしたけれども未実現のキャピタル・ゲインも含まれる。有価証券を例にとると,1株100円で買ったものが現在200円にまで上昇していれば,実際にその価格で売却して差額である1株当り100円のキャピタル・ゲインを実現しなくてもキャピタル・ゲインは発生しており,したがって所得とみなされて所得税の課税対象となる。同様に土地や家屋その他の不動産や動産の価値の上昇から生じたキャピタル・ゲインは,実現していようと未実現であろうと,所得税の課税対象となることになる。

 経済理論からみると合理的・包括的な所得概念も税務行政上はいろいろむずかしい問題を抱えていて,キャピタル・ゲイン課税は不完全な形でしか実施されていない。例えば有価証券の売買から生じるキャピタル・ゲインについては,シャウプ税制崩壊後,近年まで原則非課税であったが,1988年の改正により,有価証券の売買から生じるキャピタル・ゲインは,原則的に課税されることになった。すなわち,89年以降,株式等(若干の例外あり)のキャピタル・ゲインは,事業所得,譲渡所得および雑所得にあたるかを問わず,他の所得と分離して20%の税率で課税される。

 しかし,有価証券のキャピタル・ゲインの全額課税ではない点で,採用された制度は不徹底なものである。資産にはそれ以外にもいろいろな動産や不動産があるが,税務行政上の制約から,実際に課税対象となる資産は大幅に限定されざるをえない。

 日本の所得税制度においても,譲渡所得課税としてキャピタル・ゲインに対する課税が実施されている。一般の課税方式によって,土地・建物等以外の資産に対する譲渡所得が課税されている。保有期間5年を超える資産の譲渡による所得は長期譲渡所得と呼ばれ,他方,保有期間5年以下の資産の譲渡による所得は短期譲渡所得と呼ばれるが,税率は後者のほうが高い。長期・短期譲渡所得について,詳しくは〈土地税制〉の項を参照されたい。

 土地・建物等にかかる譲渡所得に対する課税は分離課税の特例の対象になっている。複雑な算定式が存在するが,総合課税としての所得税の例外を形成しており,一般的には総合課税された場合より租税負担は低くなるから優遇税制として批判の対象となっている。
インカムゲイン・キャピタルゲイン
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株式公開用語辞典 「キャピタル・ゲイン課税」の解説

キャピタルゲイン課税

株式公開が実現され、有価証券の譲渡による所得に対しての課税を意味し、所得税・住民税が課税されることが原則となっています。有価証券の譲渡による所得は、一般的には「譲渡所得」である。但し営利を目的として継続的に譲渡される資産の所得に関しては、事業とみられる規模で行った取引は「事業所得」で、事業に至らないような規模で行う継続的取引によるものは「雑所得」と見なされます。居住者または、国内に恒久的施設を有する非居住者が株式等の譲渡をした場合には、その譲渡にかかる譲渡所得等については、申告分離課税にて確定申告をおこなわなくてはなりません。平成13年度の税制改正までは、申告分離課税か源泉分離課税のどちらかの課税方法を選択できましたが平成14年12月31日に廃止されました。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キャピタル・ゲイン課税」の意味・わかりやすい解説

キャピタルゲイン課税
キャピタルゲインかぜい
capital gain taxation

株式,不動産などの資産の価格が上昇したときに,その価値の増加分に対して課税することをいう。これには,資産価値の増加が,その売却などによって実現した場合に課税するケースと,資産価値の増加が実現していなくても,いわば含み資産の増加に課税するケースがある。実現したキャピタルゲインの扱いについては,土地に対しては譲渡益課税が行なわれており,株式に対しても,従来原則非課税であったが,1988年度の税制改正によって,その売却益についても課税されることとなり,原則として 26%の申告分離課税が実施されている。資産の含み益に対する課税については,個人の場合は相続の際の相続税によって実質的に課税されているが,法人については課税が行なわれていない。

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世界大百科事典(旧版)内のキャピタル・ゲイン課税の言及

【シャウプ勧告】より

…しかし,これらだけでは地方間の財政力の不均等が強まるので,それに対しては地方自治強化の目的とあわせて,特定補助金の大幅整理と従前の分与税制の改善を図り,また,地方からの積上げ計算に基づく地方財政平衡交付金制度の導入を勧告している。 この勧告は1950年度の税制改正でほぼそのまま実現したが,なかには道府県税の付加価値税のように採用されなかったものもあり,昭和20年代末にはキャピタル・ゲイン課税,富裕税などが続々廃止されていく一方,租税特別措置など経済政策的税制操作が拡大していき,シャウプらの掲げた論理整合的な税制は崩壊した。【林 健久】。…

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