改訂新版 世界大百科事典 「土地税制」の意味・わかりやすい解説
土地税制 (とちぜいせい)
大都市およびその周辺部を中心とする土地需給の不均衡とこれに起因する地価の高騰等のいわゆる土地問題に対処するための税制上の対策であり,譲渡益課税と保有課税とからなる。
日本においては,昭和30年代の高度成長期以降の比較的短い期間において,都市化が進行した結果,工場用地,住宅地に対する需要が急増した。さらに,社会資本充実のための公共用地取得が行われたため,大規模な土地需給の不均衡および地価の急騰が生じた。地価は賃金水準や一般物価水準の上昇度を上回る上昇を続け,昭和40年代に入って,この地価高騰の問題は経済問題という以上に社会的な問題に発展した。その解決のため,土地政策の速やかな実施が要請されてきた。土地政策において税制の果たしうる役割はあくまで補完的なものにとどまり,税制のみによって土地政策の実効を期することはできず,むしろ各般の総合的な土地政策の確立こそが必要であると考えられるが,この要請を受けて,土地供給および有効利用の促進,仮需の抑制等を狙いとした税制上の措置が講じられている。
経緯
1969年の税制改正においては,それまでに講じられた個別措置の全面的な見直しを踏まえて,所得課税上,長期間保有した土地の譲渡に係る所得については他の所得と分離して低率で課税する方式の採用により税負担を軽減することを通じ,個人の長期保有土地の供給促進を図った。それとともに,短期間しか保有していない土地の譲渡に係る所得については本来の税負担よりも重課することにより仮需の抑制および値上がり益の社会還元を図った。
1973年の税制改正においては,1971年以降の金融緩和を背景として,せっかく個人から放出された土地を法人が投機的に取得するという現象が頻発したことにより,これらの投機的保有を規制するために,短期間しか保有していない土地の譲渡利益(いわゆる短期譲渡所得(土地))については,通常の法人税に加えて比例税率で税負担を上乗せすることとした。また,保有コストを高める方策として新規の土地取得および短期の土地保有に対し負担を求める特別土地保有税(市町村税)が創設された。
その後いくたびかの改正が行われたが,土地税制が長期安定的な制度として確立されなければ,税制の緩和期待による土地の売惜しみによりかえって土地の安定的供給を期待しえないとの反省にたって,82年の税制改正において,市街化区域農地に係る固定資産税等の課税の適正化も含めた長期安定的な土地税制の確立が図られた。87年には,所有期間の区分基準を5年に改め,また所有期間2年以内の超短期譲渡益の重課制度が創設される等,所有,消費,資産の課税の公平を図るという観点から抜本的な改革が行われた。そして89年には,土地基本法が制定され,土地税制の見直しを含む土地政策の推進が求められ,91年地価税が国税として創設された。さらに92年には,法人税について所有期間にかかわらず追加課税が創造され,95年,96年改正で土地をめぐる状況等の変化にかんがみ,税率が軽減された。
現状
1997年度現在の土地税制は以下のとおりである。長期譲渡所得(譲渡の年の1月1日現在で所有期間が5年を超える土地等の譲渡益)についても,短期譲渡所得(5年以下)についても分離課税が採用されている。
(1)個人 (a)長期譲渡所得の場合 (イ)4000万円以下の部分については20%(住民税6%),(ロ)4000万円超8000万円以下の部分については25%(住民税7.5%),(ハ)8000万円超の部分については30%(住民税9%)。ただし,宅地の供給を促進するため,優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合,また居住用財産を譲渡した場合には,税率が軽減されている。
(b)短期譲渡所得の場合 次のいずれか多い方の税額。(イ)課税所得×40%(住民税12%),(ロ)総合課税による上積税額×110%(住民税も同様110%)。
(c)なお,極端な土地投機を防止するため,事業所得または雑所得の基因となる土地等で取得後2年以内のもの(超短期所有土地)の場合には,課税所得×50%(住民税15%),または総合課税による上積税額×120%(住民税も同様120%)のいずれか多い方の税額によることとされている(超短期譲渡益の重課制度,2002年3月31日までの措置)。
(2)法人 (a)長期所有等一般(5年超等)の場合 通常の法人税のほか,5%の税率で追加課税。(b)短期所有(2年超5年以内)の場合 通常の法人税のほか,10%の税率で追加課税。(c)超短期所有(2年以内) 通常の法人税のほか,15%の税率で追加課税。
(3)市街化区域内の農地に対する固定資産税および都市計画税については,所要の負担調整措置は伴うものの宅地並み評価の1/3の額を課税標準として,1.4%で課税される。
(4)所有期間10年以内の土地を所有する者については取得価額の1.4%,1973年7月1日以降新規に土地取得を行った者については取得価額の3%でそれぞれ特別土地保有税が課される。
(5)このほか,公的な土地取得の推進,住替えの容易化等の見地から,収用,買換え等について,一定の要件のもとに最高5000万円の特別控除,課税の繰延べといった特例が認められている。
アメリカ,イギリスの制度
土地の供給,利用の状況に応じ土地については,その他の財産とは異なった扱いを行っている例がある。アメリカにおいては,保有期間が1年を超える土地を含む資産の譲渡による所得について,その40%相当額を課税標準とする軽減措置が講じられていたが,1986年に廃止された。なお,居住用住宅の買換えおよび資産の強制転換については課税の繰延べが認められる等の特例がある。イギリスにおいては,資産の譲渡による所得は他の所得と分離してキャピタル・ゲイン税が課税される。
執筆者:渡辺 博史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報