前6世紀後半から前5世紀前半の古代ギリシアの詩人。前570年ころ,エーゲ海に面した小アジアのポリス,テオスに生まれたとされる。同郷人とともにトラキアのアブデラに植民市を建設した後,文芸保護者として当時名高かったサモスの僭主ポリュクラテスのもとに招かれた。僭主の死後アテナイに渡り,テッサリアに居を移し,再びアテナイに戻って,ひじょうな高齢で死んだという。彼の書いた詩は,イアンボス詩,エレゲイア詩,そしてリラ(竪琴)に合わせて歌われるべき詩(メロス)の3種に分かれ,これらは,アレクサンドリア時代の文献学者アリスタルコスの手によって6巻の詩集にまとめられたが,ごく一部が断片の形で伝わっているのみである。彼のメロスは独唱用のもので,また個人の感情を中心に据えたその内容からも,サッフォー,アルカイオスの系統に位置づけられる。彼の駆使した韻律は比較的単純なもので,また恋愛感情,酒などをテーマにしたものが多く,このために古代後期において多数の模倣詩がつくられ,〈アナクレオンテイア(アナクレオン風)〉という名の詩集が編まれるに至った。16世紀にこのアナクレオンテイアの印刷本が出版されて後,模倣詩集の方がひじょうな好評を博し続け,また詩人たちに影響も与えるといういささか奇妙な事態もおきた。ただ,酒席で歌われる軽い戯れの歌がほとんどを占めるこの模倣詩集があまりにも有名になりすぎて,アナクレオンそのものが不当に軽く見られるという傾向も否めない。
執筆者:安西 真
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古代ギリシアの叙情詩人。小アジアのテオス生まれ。ペルシアの侵略によって故郷を去り、市民とともにアブデラの町を建設した。そののち、サモス島の僭主(せんしゅ)ポリクラテスの宮廷に招かれ、その息子に詩歌や音楽を教えた。この僭主が殺されると、アテネの僭主に迎えられ、そののちも各地の王侯貴族の館(やかた)に招かれて、名声も高く、市民からも親しまれていた。彼の詩は、大部分が酒、美少年、乙女、恋を歌った軽快なもので、豊かな情緒と鋭い感受性に恵まれたこの風流詩人が広く愛されていたことは、アテネのアクロポリスに彼の像が建てられたことや、後世にも多くの愛好者、模倣者を出したことからもうかがわれる。彼の詩は断片が百数十編残っており、その韻律を模倣して後代につくられた短詩60編余が、アナクレオンテイア(アナクレオン風)の名で伝わり、後の詩人たちにも大きな影響を与えた。
[大竹敏雄]
『呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』(岩波文庫)』
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前570頃~前485以前
古代ギリシアの抒情詩人。テオス島に生まれ,トラキアのアブデラ,サモス島,のちにはさらにアテネに移る。その詩は,機知と諧謔(かいぎゃく)とのゆえに人々の心をとらえた。
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…この時代の抒情詩文学においては,時と場所が課する要請と,歌い手の詩人自身の個性とが不可分の一体を成している場合も多く,アルカイオスのように政治と自分と酒の歌とが一つに歌われているものもある。またこの時期に各地の僭主たちの宮廷に招かれて宴席に華をそえたイビュコスやアナクレオンのような耽美的詩人たちも現れている。オリュンピアの体育競技の祭典やデルフォイ,イストミア,ネメアなどでの同様の催しがにぎわいの頂点にあったのも前500年代のころであり,競技祭における神人一体の勝利の喜びを合唱歌として歌った詩人たちは数多い。…
…これら英雄や神々の物語とは別に,庶民の日常生活に根ざしたヘシオドス(前700ごろ)の《農と暦》や,神話伝説を整理した《神統記》もある。抒情詩を代表するのはアルカイオスと女流詩人サッフォー(ともに前7世紀)で,ついでアナクレオンが出るが,いずれも古くから伝わる独唱歌の様式を踏んでいる。他方,合唱歌の作者としてはシモニデス,ピンダロス(ともに前6世紀から前5世紀)があり,これは公式行事や祭儀で歌われた。…
※「アナクレオン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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