日本大百科全書(ニッポニカ) 「エレジー」の意味・わかりやすい解説
エレジー
えれじー
elegy
悲歌、挽歌(ばんか)。ギリシア語のエレゲイアelegeia(哀悼歌(あいとうか))に由来し、親しい人の死、ひいてはこの世のはかなさを悲しみ嘆く詩。形式的には六歩格(ヘクサメトロス)に五歩格(ペンタメトロス)をつけた2行を1単位にし、内容的には哀悼、哲学的論考、死者の慰めからなり、人生の意味、死の覚悟など親愛なる人間の死を契機として作者の死生観を吐露する詩である。古代小アジアの哀悼歌の様式がギリシアに伝わったものであり、ローマの詩人カトゥルスやオウィディウスらに受け継がれ、やがてドイツやイギリスの詩人たちによって踏襲され、発展した。ギリシアのエレゲイアの形式に従う詩は、政治詩、献辞、教訓詩、エピグラムなどの内容をもっており、古典時代に頻用されたが、近代に至っては詩型よりも内容が重視され、とりわけ身近な人たちの死や不幸について、悲哀の心情をせつせつと吐露する詩のことをさすようになった。代表的作品には、ミルトンが溺死(できし)した友人エドワード・キングを哀悼した『リシダス』をはじめとして、ゲーテの『ローマ哀歌』、シラーの『逍遙(しょうよう)』、ラマルチーヌの『湖(みずうみ)』、トマス・グレーの『墓地の哀歌』、シェリーが友人キーツの死を歌った『アドネイス』、テニソンの『イン・メモリアム』などがあるが、20世紀最大の悲歌はリルケの『ドゥイノの悲歌』であり、在来の個人的感懐を脱して、種々の権力に圧殺されつつある人間の状況を訴えたもので、現代詩に多大な影響を与えた。
[船戸英夫]