改訂新版 世界大百科事典 「クサムラドリ」の意味・わかりやすい解説
クサムラドリ (叢鳥)
scrub-bird
スズメ目クサムラドリ科Atrichornithidaeの鳥の総称。この科は2種からなり,オーストラリアの一部にごく局地的に分布する。ワキグロクサムラドリAtrichornis rufescensは全長約16cm,頭上,背,翼,尾は褐色で黒褐色の細かい横斑がある。腹部は淡褐色。雌はのどが白く上胸からわきは濃褐色,雄では上胸部の濃褐色部がのどの中央を通り下嘴(かし)基部に達している。体の割りに尾はやや長く,ミソサザイを大型にしたような感じの鳥である。クイーンズランド州南部からニュー・サウス・ウェールズ州北部の亜熱帯降雨林に局地的に分布する。林床の草木の茂みの中や地上で生活しているのと羽色がじみなために,まれにしか姿を観察できない。しかし,繁殖期には雄はよく響く声でさえずるので,その鳴声で生息が確かめられる。また,雄はテリトリー争いに際し,さまざまな他の鳥の声をまねて鳴き合うという。繁殖生態は詳しく研究されていないが,雌は地上近くに枯草を集めて側部に出入口のある球形の巣をつくり,巣の内部をイグサ類を用いて硬くつくりあげる。1腹の産卵数は2卵。ノドグロクサムラドリA.clamosusは全長約21cm。雌雄とも羽色は前種に似ているが,上胸の黒褐色部はさらに濃色でわきの部分は褐色。この種は1842年に新種として記載され,当時はウェスタン・オーストラリア州に広く生息していたようだが,89年以後発見されず絶滅したと思われていた。しかし,1961年にオーストラリアの南西端オールバニーの北方の森林で再発見された。一般生態は前種に似ている。1腹の産卵数は1卵,抱卵日数は長く36~38日,孵化(ふか)後約3~4週間も雌親に育てられて巣立ちする。この種も羽色がじみで姿を発見しにくいが,雄のさえずりの声は1.5kmも聞こえることがあるといわれる。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報