改訂新版 世界大百科事典 「ミソサザイ」の意味・わかりやすい解説
ミソサザイ (鷦鷯)
スズメ目ミソサザイ科の鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。ミソサザイ科Troglodytidaeの鳥は全長10~22cm,大部分の種が全長15cm以下の小型の鳥で,やや下方に曲がった細長いくちばしと体の割りには長めのしっかりした脚をもっている。羽色は一般に上面が褐色か灰褐色で,黒色や白色の横縞があり,下面は淡褐色か白色である。砂漠,岩地,湿原,森林などに単独かつがいですみ,地上近くの茂ったやぶの中や岩石の間を活発に動き回って,小型の昆虫類やクモ類を採食する。多くの種が美しい声で複雑なさえずりをする。繁殖期には,側面に入口のある大きな球形の巣をつくり,1腹2~5個の卵を産む。ヨーロッパ,アジア,アメリカ大陸に約60種が分布するが,分布の中心はアメリカ大陸で,中央・南アメリカの熱帯地方に多くの種が分布する。
ミソサザイTroglodytes troglodytes(英名wren)は,アジアからヨーロッパ,アフリカ北部まで分布を広げた唯一の種で,ユーラシア大陸,北アフリカ,北アメリカに広く分布している。全長11cm,日本産の鳥の中で小さいものの一つ。比較的ずんぐりした体の小さな鳥で,つねに短い尾を上げている。上面はこげ茶色で,黒色の細かな横縞があり,下面はやや淡く,胸以下にも横縞がある。日本では,低山帯上部から亜高山帯にかけての森林にすみ,沢沿いのやぶや岩のごろごろした林に多い。やぶの中や倒木,岩の間などで採食するので,比較的目につきにくいが,春には岩,切株,倒木の上に止まり,尾をぴんと立てて,体に似合わないほどの大声で複雑なさえずりを長く続ける姿を見ることができる。一部の雄は一夫多妻で,雄がテリトリー内の岩の下や割れ目,木の根もとなどにコケ類を使っていくつかの球形の巣をつくり,次々に雌を呼び寄せる。雌は選んだ巣に羽毛や獣毛で産座をつくり,1腹4~6個の卵を産む。雌のみで抱卵し,14~17日で雛がかえる。雛は両親から給餌を受け,15~20日で巣立つ。秋から冬の間は,低山帯下部や平地に移動し,薄暗いやぶの中にすむ。地鳴きは,ウグイスの〈笹鳴き〉に似ていて,チョッチョッと鳴く。
執筆者:齋藤 隆史
民俗
ミソサザイは,ヨーロッパでは旧年(過ぎ去っていく年)の象徴とされ,毎年聖ステパノの日(キリスト教会最初の殉教者ステパノの祝日,12月26日)に新年の象徴であるロビンに追われるという。そのためイギリスとフランスでは,この日に子どもたちがミソサザイをたくさんつかまえ,死骸をもって家々を回り,金銭をもらい歩く習俗もあった。アイルランドでは死の象徴であり,季節の変化を告げ,死を予言するといわれる。古くから〈小鳥の王〉と呼ばれ,《誰が殺したか,コック・ロビンを》をはじめ多くの童謡にうたわれており,ケルト人はこれをドルイドの聖鳥として敬った。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報