クスサン(その他表記)Dictyoploca japonica

改訂新版 世界大百科事典 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン (樟蚕)
Dictyoploca japonica

鱗翅目ヤママユガ科の昆虫。日本全国にごくふつうに見られ,幼虫は白色の長毛に覆われているため,一部の地方ではシラガタロウと呼ばれている。大型のガで,開帳10cm内外。クヌギコナラ,サクラ,ウメ,モモ,リンゴ,ナシ,カキ,ヌルデなどひじょうに多くの植物に寄生し,他の害虫があまりつかないイチョウに発生することもある。クリ林によく発生するところから,クリケムシと呼ばれることもある。樹幹にかためて産みつけられた卵は春に孵化(ふか)して7齢を重ね,夏の初めに楕円形の固い網目状の繭をつくって蛹化(ようか)する。この繭はスカシダワラと呼ばれ,昔は釣糸用のテグスの代用品となる糸をとったこともある。成虫は秋に出現し,よく灯火に飛来する。翅の色は変異に富み,灰黄色から赤褐色まである。後翅の眼状紋は大きく,中心が黒くて,内側のへりは細く白線となっている。幼虫が多発すると果樹園の葉が丸坊主となり,収穫に大きな影響を与える。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン
くすさん / 樟蚕
[学] Caligula japonica

昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤママユガ科に属するガ。はねの開張90~120ミリメートル。はねの色は変異に富み、灰黄色から濃赤褐色まである。前翅には小さな、後翅には大きな眼状紋があって、後翅の紋は黒い。前翅翅頂部は、雄では強く、雌では弱く出っ張る。晩夏から初秋に出現し、夜行性でよく灯火に飛来する。日本全土から中国に分布する。幼虫は体長80ミリメートル内外。体の背面は青白色で、同じ色の長毛に覆われている。側面は黒色、青色の紋を各節に連ねる。非常に多食性で、ブナ科、バラ科など多くの樹木に寄生し、ほかの昆虫がほとんど食べないイチョウにさえも発生する。繭は楕円(だえん)形で堅く粗い網目状、中の蛹(さなぎ)が透けてみえる。卵は樹幹に固めて産み付けられたまま越冬し、翌春孵化(ふか)した幼虫は7月ごろに蛹化(ようか)する。長毛の生えた幼虫はシラガタロウ、繭はスカシダワラとよばれる。幼虫はクリの葉を好んで食べ、よくクリ林に発生するので、クリケムシまたはクリムシの名もある。クリ林に多発すると、葉の被害が大きく、クリの収穫に悪影響を与える。繭をほぐしたものを栗綿(くりわた)とよび、紡績原料になるというし、テグス糸(釣り糸)の代用として幼虫の体内から絹糸腺(せん)をとり、糸をとったこともあるが、現在ではほとんど利用されていない。

[井上 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン
Dictyoploca japonica

鱗翅目ヤママユガ科のガ。前翅長 53~65mm。触角は雄では羽毛状,雌では歯の短い櫛状。翅は褐色であるが,濃淡の変異が著しい。前後翅とも外縁に沿ってあらい鋸歯状帯紋があり,前翅の先端近くには黒褐色の小斑がある。また後翅には黒褐色の大きな眼状紋があるが,前翅では不明瞭である。卵で越冬し,成虫は9~10月に出現する。幼虫は緑色であるが全身白色の長毛におおわれ,シラガタロウ,クリ毛虫と呼ばれ,クリ,カエデ,サクラなど広葉樹の葉を食べて大害を与える。また幼虫の絹糸腺からテグスのような糸がとれる。繭はあらい網状で,内部の蛹が見えるのでスカシダワラの名がある。北海道,本州,四国,九州,南西諸島,アムール,中国北部,台湾に分布する。

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百科事典マイペディア 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン

鱗翅(りんし)目ヤママユガ科の1種。開張110mm内外の大きなガで,黄褐〜赤褐色で変異が多い。日本全土,朝鮮,シベリア東部,中国,台湾などに分布。幼虫はクリケムシ,シラガタロウ,シラガタユウなどと俗称され,青白色で白い長毛がある。クス,イチョウなど種々の樹木の葉を食べるが特にクリの害虫として知られる。繭はスカシダワラと称され,淡褐色の網目状。成虫は年1回9月ごろに現れ,灯火によくくる。卵で越冬。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「クスサン」の解説

クスサン
学名:Dictyoploca japonica

種名 / クスサン
目名科名 / チョウ目|ヤママユガ科
解説 / 卵で越冬します。幼虫は、シラガタロウとよばれます。
体の大きさ / (前ばねの長さ)♂52~58mm、♀60~70mm
分布 / 北海道~南西諸島(奄美大島、沖縄島)
成虫出現期 / 9~10月
幼虫の食べ物 / クリ、コナラなど

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