クスサン(読み)くすさん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン
くすさん / 樟蚕
[学] Caligula japonica

昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤママユガ科に属するガ。はねの開張90~120ミリメートル。はねの色は変異に富み、灰黄色から濃赤褐色まである。前翅には小さな、後翅には大きな眼状紋があって、後翅の紋は黒い。前翅翅頂部は、雄では強く、雌では弱く出っ張る。晩夏から初秋に出現し、夜行性でよく灯火に飛来する。日本全土から中国に分布する。幼虫は体長80ミリメートル内外。体の背面は青白色で、同じ色の長毛に覆われている。側面は黒色、青色の紋を各節に連ねる。非常に多食性で、ブナ科、バラ科など多くの樹木に寄生し、ほかの昆虫がほとんど食べないイチョウにさえも発生する。繭は楕円(だえん)形で堅く粗い網目状、中の蛹(さなぎ)が透けてみえる。卵は樹幹に固めて産み付けられたまま越冬し、翌春孵化(ふか)した幼虫は7月ごろに蛹化(ようか)する。長毛の生えた幼虫はシラガタロウ、繭はスカシダワラとよばれる。幼虫はクリの葉を好んで食べ、よくクリ林に発生するので、クリケムシまたはクリムシの名もある。クリ林に多発すると、葉の被害が大きく、クリの収穫に悪影響を与える。繭をほぐしたものを栗綿(くりわた)とよび、紡績原料になるというし、テグス糸(釣り糸)の代用として幼虫の体内から絹糸腺(せん)をとり、糸をとったこともあるが、現在ではほとんど利用されていない。

[井上 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クスサン」の意味・わかりやすい解説

クスサン
Dictyoploca japonica

鱗翅目ヤママユガ科のガ。前翅長 53~65mm。触角は雄では羽毛状,雌では歯の短い櫛状。翅は褐色であるが,濃淡の変異が著しい。前後翅とも外縁に沿ってあらい鋸歯状帯紋があり,前翅の先端近くには黒褐色の小斑がある。また後翅には黒褐色の大きな眼状紋があるが,前翅では不明瞭である。卵で越冬し,成虫は9~10月に出現する。幼虫は緑色であるが全身白色の長毛におおわれ,シラガタロウ,クリ毛虫と呼ばれ,クリ,カエデ,サクラなど広葉樹の葉を食べて大害を与える。また幼虫の絹糸腺からテグスのような糸がとれる。繭はあらい網状で,内部の蛹が見えるのでスカシダワラの名がある。北海道,本州,四国,九州,南西諸島アムール,中国北部,台湾に分布する。

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