鱗翅(りんし)目、トビケラ目、膜翅(まくし)目などの昆虫の幼虫がもつ器官。下唇腺(かしんせん)が変化したもので、繭や巣をつづるため糸を出す。これはほかの昆虫で本来の唾腺(だせん)であるものと相同であり、細長い1対の管からなり、消化管の両側から下方に位置し、前端は合一して下唇前端の吐糸口(としこう)に開き、後方では何度も折れ曲がるのが普通である。長いものは伸ばすと体長の7倍に達し、カイコの場合は約4倍あり、3部分が区別され、中部は糸の外層をつくるセリシンsericinを、後部はフィブロインfibroinを分泌する。この両物質ともタンパク質で、後者は管内ではフィブロイノゲンfibroinogenの状態であって、前部の細い管を通過して引き伸ばされると変化し、吐糸口から出ると固まる。分泌部は1層の大きな分泌細胞からなり、各細胞は分枝した大きな核をもつ。なお、前部にある付属腺は2本の糸を接着し、硬くさせる液を分泌すると考えられている。絹糸腺のほかに、シロアリモドキの前肢(ぜんし)にある跗節(ふせつ)腺、甲虫類のガムシの雌にある生殖器付属腺、一部の甲虫や脈翅類のマルピーギ管、チャバネゴキブリの若い幼虫の尾角などからも絹糸が出されることが知られている。
[中根猛彦]
チョウやガ(鱗翅(りんし)目),トビケラ類(毛翅目),コマユバチやハバチ(膜翅目)などの幼虫の消化管の下側に沿って走る1対の細長い管状の器官で,絹糸のもとになる液状絹を生成し分泌する。カイコ終齢幼虫の絹糸腺は体重の20~30%に達し,長さ1500m以上の絹糸として吐糸される。腺は前・中・後の3部に区分され,前部糸腺の先端は合一して,下唇先端にある吐糸口につながる。絹糸を構成するタンパク質であるフィブロインは後部糸腺で分泌されて中部糸腺で蓄積され,その外側を覆うセリシンは中部糸腺で合成・分泌される。これらのタンパク質はゲル状の液状絹として腺内に蓄えられ,分子摩擦の一種であるずり応力と延伸の際の張力によって吐糸口で固体化して絹糸となる。腺は孵化(ふか)後幼虫の成長にともなって発達するが,その発育は個々の細胞の肥大成長によるもので,細胞分裂によって数が増加するのではない。腺細胞の核は初めはほぼ球形に近いが,成熟カイコになると複雑な樹枝状核となり,通常の体細胞に比べて約106倍のDNA量をもっている。フィブロインのmRNAを大腸菌に組み込ませて,DNAの塩基配列がある程度明らかにされつつある。腺は蛹化(ようか)後には退化するが,遺伝的あるいは生理的原因によって,腺が異常形態を呈する場合もある。吐糸されてできた繭や巣は外敵からの直接保護や固着手段として重要であるし,脱皮時の吐糸は足がかりになる一方,天敵の道しるべに逆利用されることもある。カゲロウ類(脈翅目)やゴミムシのある種(鞘翅(しようし)目)は直腸で,シロアリモドキ(紡脚目)は前脚第1跗節(ふせつ)にある皮膚腺から絹糸を吐糸する。
執筆者:笹川 滿廣+小林 正彦
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…分子量約37万の巨大分子で,大小二つのサブユニット(35万と2万5000)から成ると考えられている。カイコ絹糸腺でのフィブロイン合成系は真核細胞での遺伝情報の調節機構を調べる上でひじょうに都合のよい実験系で,アミノ酸組成と配列の単純さを利点としてフィブロイン構造遺伝子のクローニングが早くから行われている。【宝谷 紘一】。…
※「絹糸腺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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