クリタマバチ(読み)くりたまばち(英語表記)chestnut gall-wasp

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリタマバチ」の意味・わかりやすい解説

クリタマバチ
くりたまばち / 栗癭蜂
chestnut gall-wasp
[学] Dryocosmus kuriphilus

昆虫綱膜翅(まくし)目タマバチ科に属する昆虫。1941年(昭和16)岡山県のクリ栽培地帯に突然発生し、またたくまに西日本一帯から関東、東北地方にまで広がり、栽培クリや野生クリに大被害を与えた害虫。55年(昭和30)ごろが被害のピークであった。近年の調査により、日本のクリタマバチは中国から侵入したことが明らかになったが、たぶん密輸されたクリ苗について侵入したものと推定される。韓国にも発生しているが、近年アメリカにも侵入定着した。クリタマバチは雌バチだけで単為生殖により繁殖し、雄バチはみつかっていない。体長約3ミリメートル、黒色光沢がある。年1回の発生で、成虫は梅雨直後に出現し、葉柄基部の腋芽(えきが)内に数卵ずつ産卵する。産卵数は平均300粒。腋芽はそのまま越冬し、翌春枝葉の伸長期に急にこぶ状に膨れる。このこぶは虫こぶとよばれ、桃色人差し指指先ほどの大きさになる。クリタマバチの幼虫はその中で成長する。

 抵抗性のクリの品種である銀寄(ぎんよせ)などの普及、野生クリの伐倒、天敵増加ほかのタマバチなどを攻撃していた日本在来のクリマモリオナガコバチほか数種の寄生バチがクリタマバチに寄生する)などで、被害もいちおう収まった。ところが、75年ごろからクリタマバチにバイオタイプが出現し、いままで抵抗性であった銀寄などに被害が目だち始め、新たな問題がおこってきている。

[平嶋義宏]

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改訂新版 世界大百科事典 「クリタマバチ」の意味・わかりやすい解説

クリタマバチ (栗玉蜂)
Dryocosmus kuriphilus

膜翅目タマバチ科の昆虫。クリの大害虫。雌だけで繁殖し,雄はまれ。成虫は黒色で体長約3mm。年1回の発生で6~7月に羽化し,クリの腋芽(えきが)の内部に産卵する。若齢幼虫で冬を越し,翌春,幼虫が発育を始めると,その芽は肥大して虫こぶとなる。虫こぶは直径が1cm以上に達するものもあり,中に数匹の幼虫が入っている。虫こぶとなった芽は,葉の展開が妨げられるので,多数寄生された場合はクリの生産に影響し,さらに木全体が枯死することもある。中国が原産地であるが,日本では1941年岡山県で初めて発見され,61年までに全国に分布を広げ,さらに韓国,アメリカのジョージア州にも侵入した。日本での被害は1950年前後をピークに非常に激しかったが,虫こぶのできにくいクリの品種に切り替えたため発生は下火になった。しかし最近,この抵抗性品種にも虫こぶがつくようになり,再びその害が問題となっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クリタマバチ」の意味・わかりやすい解説

クリタマバチ
Dryocosmus kuriphilus

膜翅目タマバチ科。雌の体長 2mm内外。雄は発見されていない。体は褐色を帯びた黒色で,頭楯,大腮,触角,肢は褐色である。全体なめらかで光沢があり,特に腹部は著しい。胸部は後方にせばまり,腹部は側扁する。前伸腹節に3条の隆起がある。翅は透明。産卵管は長く後方に突出する。6~7月頃出現し,クリの新芽に産卵し,2~3日で死ぬ。幼虫は球状の虫 癭 (ちゅうえい) をつくり,その中で越冬し,5~6月に蛹化する。 1941年頃に初めて岡山県で発見され,その後本州,四国,九州の各地に広がった。クリの大害虫として有名。

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百科事典マイペディア 「クリタマバチ」の意味・わかりやすい解説

クリタマバチ

膜翅(まくし)目タマバチ科の昆虫の1種。体長約3mm,黒褐色。日本では1941年岡山県で初めて発見されてから急激に広がり,本州,四国,九州に分布。クリの大害虫で,成虫は初夏に発生し,クリの越冬芽に産卵。雌だけで単為生殖を行う。幼虫は越冬芽中で冬を越す。翌春発芽した芽は淡紅色,球状の虫こぶとなる。このため寄生された木は開花不能になり,枯死することもある。
→関連項目タマバチ

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世界大百科事典(旧版)内のクリタマバチの言及

【クリ(栗)】より

…品種は数が多く,1913年には約500品種が記録されている。果樹園としての面積は大正時代の末期から増加したが,41年ごろに発生したクリタマバチのため生産は減退した。その後,クリタマバチ耐虫性品種の森早生(もりわせ),丹沢,伊吹,筑波(つくば),銀寄(ぎんよせ),石鎚(いしづち),岸根,利平などの普及によって栽培面積は増加している。…

【虫こぶ】より

…しかし,作物,果樹にできた虫こぶは,生育の妨げとなる。例えば,ブドウネアブラムシ,タマナコフキアブラムシ,モモコフキアブラムシ,モモコブアブラムシ,クワシントメタマバエ,マツシントメタマバエ,クリタマバチなどによるものである。虫こぶを作らせる物質は未知であるが,昆虫の種類によって産卵する植物の種類も部位も,できる虫こぶの形も決まっている。…

※「クリタマバチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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