クロバエ(読み)くろばえ(その他表記)blow fly

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロバエ」の意味・わかりやすい解説

クロバエ
くろばえ / 黒蠅
蒼蠅
blow fly

昆虫双翅(そうし)目環縫(かんほう)亜目クロバエ科Calliphoridaeの昆虫の総称、またはそのなかのクロバエ属Calliphoraをさす。クロバエ属は一般に胸部黒色で、腹部は青黒色光沢をもつ大形のハエである。オオクロバエC. lataは民家付近に普通にみられ、魚や腐肉に好んで集まり、それに産卵する。くみ取り式便所にも大発生し、食品にもたかるので重要な衛生害虫である。平地では春秋にみられ、夏に姿を消すが、涼しい山地帯では盛夏にもみられる。山地には近縁種のミヤマクロバエC. vomitoriaが産し、山小屋などの便所に発生したりする。本種は世界に広く分布する衛生害虫である。ホオアカクロバエC. vicina(一名C. erythrocephala)は帰化昆虫で、東京地方と富山地方以北の都市のみにみられる。北アメリカ、ヨーロッパ、シベリアに広く分布する衛生害虫であったが、第二次世界大戦後、北方から北海道に侵入し、東北地方から関東地方、および中部地方に分布するようになった。生理学実験の材料によく利用される。コクロバエ属Melindaイエバエに似た体形で、胎生幼虫カタツムリナメクジに寄生する。チビクロバエ属Onesiaも胎生で、幼虫はミミズに寄生する。ヒメクロバエ属Polleniaは体に金髪様の美しい毛を装い、卵生でミミズに寄生する。ベンガルバエ属Bengalia成虫が捕食性で、行列中のアリから卵や繭を奪って食べる。オビキンバエChrysomya megacephalaは「東洋の便所バエ」とよばれ、東南アジアでは消化器伝染病や寄生虫卵を運搬する汚いハエで、卵生で腐肉や便所で大量発生する。トリキンバエ属Protocalliphoraの幼虫は野鳥の雛(ひな)に外部寄生する。クロバエ科のなかで、体全体が青緑色に光るものをキンバエとよんでいる。

倉橋 弘]


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改訂新版 世界大百科事典 「クロバエ」の意味・わかりやすい解説

クロバエ

広義にはハエ類のうち,体が黒色,黒褐色または青藍色を呈するものをいい,クロバエ科,イエバエ科に含まれる種が多い。一般には,クロバエ科Calliphoridaeのクロバエ属Calliphoraとその近縁のものを指すことが多い。英名はblow fly,blue bottle fly。クロバエ属に入るハエは,日本からは,5種知られている。このうち,もっともふつうなのは,オオクロバエC.lataである。日本全土に分布し,温暖な地方では春と秋に,寒い地方や高山では夏にのみ出現する。成虫は,青藍色,体長9~13mm,胸部を後方から見ると,白い粉で覆われている。中胸気門は橙色。幼虫は,うじむし形で脚をもたない。動物の死体(腐敗した魚や肉),ごみため,便などから発生する。ケブカクロバエAldrichina grahamiは,発生時期,発生源などがオオクロバエとよく似ている。雄の複眼の間は広く,生殖背板は大きい。街のごみ箱の周辺や魚屋の店先などで見られるのは,ほとんどこの2種である。夏に山地にいるのは,この2種とミヤマクロバエC.vomitoriaである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クロバエ」の意味・わかりやすい解説

クロバエ
bluebottle fly

双翅目クロバエ科のハエのうち,体が金緑色または青緑色のいわゆるキンバエ以外のものをいう。体は暗灰色,黒色または弱い藍色で,幼虫は腐敗動物質や糞便などの汚物中で育ち,軟体動物に寄生する種も知られている。体長 13mm内外のオオクロバエ Calliphora nigribarbisや,それより小型で胸部背面に黒色の3縦条があるケブカクロバエ Aldrichina grahamiなどが知られている。

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百科事典マイペディア 「クロバエ」の意味・わかりやすい解説

クロバエ

双翅(そうし)目クロバエ科の昆虫のうち黒色の種類の総称。体長10mm内外,黒色で,灰色,青,緑色などを帯びるものが多い。幼虫は便所,ごみためなどの汚物にすみ,成虫も汚物を好むが,花にもよく集まる。オオクロバエなどが代表的。キンバエ類もクロバエ類の仲間である。

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