日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロム酸混液」の意味・わかりやすい解説
クロム酸混液
くろむさんこんえき
chromic acid mixture
二クロム酸カリウムの飽和溶液と濃硫酸(試薬はいずれも工業用でよい)との混合溶液をいう。主としてガラス容器の汚れを取り除くために用いる洗浄液でクリーニング溶液ともいう。
溶液中に生じている酸化クロム(Ⅵ)またはポリクロム酸イオンが酸性溶液中で酸化作用をもつので、ガラス器具類に付着した有機物の汚れを酸化分解し、器具を清浄にする働きを示す。小形の器具類はこの液を入れた洗浄槽中につけ、大形のものや容量分析に用いる測容器類はこの液を満たして、一夜放置する。清浄にしたガラス器具類はよく水洗し、最後に蒸留水で洗浄し、必要ならば乾燥して使用する。この洗浄液は何回も使えるので、使用のつど洗浄槽に戻す。長期間の使用によってクロム(Ⅲ)塩が緑色を帯びてきたら効力がないので、新しくつくりかえる。
この液は有機物を酸化分解する作用が強いから、手とか実験衣類につけないように十分注意する。もし誤って衣服類に洗浄液がついたら、多量の水で洗い流し、炭酸ナトリウムなどで中和しておく。硫酸は揮発性が小さいので乾燥すると衣類に穴があくことがある。なおクロム(Ⅵ)化合物(六価クロム)は有害で、下水道の排水基準が厳しいので、廃液を下水に流してはいけない。クロム酸混液は洗浄力が強い利点があるが、このようにいくつかの欠点があるので、最近は表面活性剤を基剤とする洗浄液が用いられるようになっている。
[成澤芳男]