日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロレラ」の意味・わかりやすい解説
クロレラ
くろれら
[学] Chlorella
緑藻植物、オオキスタ科のプランクトン性淡水藻。鮮緑色で、微小な球形あるいは卵形の単細胞体。径10マイクロメートル以下の微小粒体は無鞭毛(むべんもう)で遊泳力がなく、個々が離れ離れとなって、水中に浮遊分散して生育する。日本各地の淡水域に普遍的に分布し、1年を通じて出現するが、とくに夏季に旺盛(おうせい)な繁殖がみられる。繁殖法は、体内容が分割して内部に自生胞子をつくるという無性的な増殖を繰り返すだけなため、急速に殖えていく。クロレラは魚貝類の餌料(じりょう)となり、また光合成を行って酸素を発生するなどの作用があるので、水中でのクロレラ密度が適度である間は、魚貝類生活へのよい環境づくりに役だっているが、クロレラ密度が過密になると、いわゆる「鼻上げ・水変り」という状態がおきて魚貝類を一斉に殺すという惨状を呈することもある。
一方、クロレラ体中にはクロロフィルが多く含有され、また、水中に一様に浮遊させるということも容易なため、古くから光合成研究の好材料として使用されてきた。このため、クロレラの培養条件なども早くからわかっており、培養液の処方を変えると、タンパク質あるいは脂肪の含有量の多い体にすることができる。また、生産量も、水中を立体的に使用できるために、平面的にしか使えない田畑の食糧生産よりも計算上は効率がよいなどの論が生まれ、人類の未来食糧として喧伝(けんでん)されたこともあった。しかし実際には、生産原価がきわめて高くつく、不消化分が多い、嗜好(しこう)にあわないなどの点で、人類の食糧としては不向きであることが判明した。しかしながら、こうした諸研究を通じて、やや科学的実証の欠ける面もあるが、実用面では、(1)乾燥粉末体を食べ続けると健康を保つに有効、(2)含クロレラ池水は家畜の飲料また飼料として有益、(3)クロレラ抽出液には、乳酸菌の生育を促進するある種のホルモン的物質、あるいは人間の皮膚の保健に効果のある物質を含む、などが喧伝されており、しばしば諸種の商品に「クロレラ」の名が冠せられている。
なおまた、水産の分野では、水産動物類の「卵の孵化(ふか)→稚児→種苗→成体」の諸過程を一貫して人工管理下に行う養殖業が普及しているが、初期稚児時代の餌料としてクロレラが使われている。
[新崎盛敏]