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栽培植物 さいばいしょくぶつ cultivated plant

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世界大百科事典 第2版の解説

さいばいしょくぶつ【栽培植物 cultivated plant】

われわれの日常生活をふり返ってみると,毎日の生活が多くの栽培植物に依存していることに気がつく。現在世界中に栽培されている植物は,約2300種にのぼるが,それらは過去およそ1万年の間に世界の各地域でいろいろな時代に,野生の植物から人間の手によって作り出された一群の植物ということができる。栽培植物は人間が肥料を与えたり,病虫害から保護したり,長期間にわたり人間の手によって選択や交雑が行われてきたために,もはや自然状態においては生存できない状態になっているものが多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

栽培植物
さいばいしょくぶつ

イネ、ムギをはじめ、豆類、いも類、蔬菜(そさい)類、果樹類、花卉(かき)類、飼料植物など、すべて人間によって栽培されている植物を総括して栽培植物という。栽培植物は野生原種そのままのものもあるが、多くのものでは遺伝学的に野生原種と異なっている場合が多い。
 栽培植物は一般に人間の選択により、野生原種より迅速に成長し、茎も葉も花も大型となる傾向がある。たとえば果樹では、利用部分である果実が大きくなるだけでなく、茎も葉も花も大きくなっている。利用部分の収量を大きくするためには、その背後の植物体全体が強壮で大きくなくてはならないからである。種子を利用する栽培植物、穀類、豆類などで、野生原種の穀類では粒が穂から脱落し、豆類では莢(さや)が裂開するが、これでは収穫に不便である。そのため穀類では粒が脱落せず、豆類では莢が裂開しないように栽培種は改良されている。トマトやトウガラシの果実も野生原種では成熟すると落下するが、栽培種では落下しない。
 穀類、豆類の乾燥した種子に、水、温度、酸素を与えると一斉に発芽してくるが、これはその野生原種にはなかった性質である。野生原種では、成熟した種子には休眠があって、しかも1粒ごとに休眠期間が異なっている。そのため播種(はしゅ)すると、発芽がそろっておこらない。栽培化によって種子に休眠がないようになった小麦、大麦などでは、収穫期に降雨が続くと、穂発芽の被害を受けることになる。このほかおもしろい変異としては、野生原種は雌雄異株であったのに、栽培植物では雌雄同株となったものがある。ブドウとコショウがその例になる。
 栽培植物は一般に非常に多型の遺伝的変異をもつ多くの品種がある。これら品種を特徴づける遺伝子は突然変異か近縁種の交配から導入されたものである。そしてこれら遺伝子の大部分は劣性遺伝子によっている。栽培植物の高度に改良された品種というものは、実は高度に劣性遺伝子が組み合わされているものである。この点からみると栽培植物は、野生種から進化したものというより、退化した植物で、人間に利用される奇形植物というべきであろう。多くの栽培植物では、人間の保護から離れて自然生態系のなかで生きていくことはできなくなっている。イネもムギも全世界的に非常に多様な環境のなかで栽培されているが、こぼれ種から自生の集団をつくった例は一つもない。自然生態系のなかでの生活力がこれほどまで失われるという退化を遂げているわけである。
 栽培植物の歴史は農耕文化の歴史でもある。現在の世界の農業の主力作物であり、また主食でもある栽培植物のムギ類、イネ、雑穀類、豆類、いも類などはいずれも約1万年前の新石器時代のころに栽培化されたもので、青銅器や鉄より人間の歴史のなかで古い存在である。その後の文書のある時代に入ってからは、主食となるような栽培植物は開発されず、そのかわり蔬菜、果樹が栽培化された。花卉と牧草の栽培化はさらに近代のことである。このように主食用の栽培植物の開発は人類史上で1回だけおこったことで、2回目はみられない。
 栽培植物が野生から人間の手によって栽培化された起源地は、地球の上に平均的に分散しているのでなく、かなり特定の地域に集中している。このことに関する1951年ソ連のバビロフによる八大中心地説は、彼の一連のこの方面に関した研究の最終のものであった。またイギリス系考古学者を中心として、農耕文化の発生は西南アジアの豊かな半月弧とよばれる地域に小麦、大麦などを中心におこったとし、その農耕文化がアフリカ、インド、東南アジア、中国などに伝播(でんぱ)して新しい栽培植物が開発されたと考えた。これは農耕文化一元説に基づく栽培植物の起源論である。しかし最近になって、旧大陸、新大陸の考古学、民族学、栽培植物学などが総合され、農耕文化一元説はほとんど学界から消失している。
 農耕文化多元論による栽培植物の起源地は、世界の農耕文化を四大系譜に分割した場合では次のようになる。ヤムイモ、タロイモなどいも類とバナナを中心とする根菜農耕文化の作物は東南アジア大陸部の南部で栽培化されてオセアニアに伝播し、その途中でサトウキビ、パンノキなどが栽培化された。アフリカのサハラ砂漠以南のサバンナ帯では雑穀、夏作豆類などを中心とするサバンナ農耕文化が生まれ、それに応じる栽培植物が開発された。その農耕文化はインド、中国に伝播し、アワやキビの雑穀、大豆、アズキなどの豆類が開発された。地中海東岸の西アジアではムギ類と冬作の豆類が開発された。また新大陸では中・南米でトウモロコシ、トマト、トウガラシ、ジャガイモなどが開発された。世界的にみて、このように栽培植物は特定の地域に多く起源している。[中尾佐助]
 栽培植物にはそれぞれの種類に品種があり、種子により栽培されるものと、挿木、接木(つぎき)、株分けなど栄養繁殖によるものがある。種子によるものは主要な形質について遺伝学的に固定していなければならない。しかし両親系統が維持されており、毎年同質の種子が、しかも種子の生産にあまり経費がかからない場合は一代雑種など雑種性の品種であっても、十分経済性のある品種となって取り扱われている。最近の科学の発展に伴う育種技術の進歩により、一代雑種の範囲が広められた。栄養繁殖性の品種は一個体から増殖されたもので、分枝系(クローン)である。したがって遺伝的には雑駁(ざっぱく)なものであると考えられるべきである。また種間雑種や属間雑種なども品種として、栽培されている。
 栽培植物はその利用目的によって食用作物、飼料作物、工芸作物、観葉植物、薬用植物などという名称で分けられ、食用作物はさらに穀物類、豆類、いも類などという名称で細別されている。これらとは別に生産の目的である物質がデンプン、油脂、繊維、糖などの場合、それぞれにデンプン作物、油脂作物、繊維作物、糖質作物という名称もある。したがって、たとえばサツマイモやジャガイモなどはいも類でもあり、食用作物としても取り扱われる。また食用であっても、ハクサイやキャベツは葉菜類、ダイコンやニンジンなどは根菜類、リンゴやミカンなどは果樹類と称されている。観葉植物や薬用植物は栽培され、品種改良などの人為的操作が加えられているが、○○作物とはいわない。デンプン植物とか油脂植物などといった場合は通常は栽培されていないが、デンプンとか油脂を産生している植物をも含めているとみるべきである。[近藤典生]
『中尾佐助著『栽培植物の世界』(1976・中央公論社) ▽星川清親著『栽培植物の起源と伝播』(1978・二宮書店) ▽N・ヴァヴィロフ著、中村英司訳『栽培植物発祥地の研究』(1980・八坂書房) ▽ドゥ・カンドル著、加茂儀一訳『栽培植物の起源』全3冊(岩波文庫) ▽中尾佐助著『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書) ▽田中正武著『栽培植物の起源』(NHKブックス)』

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