クローン牛(読み)くろーんうし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クローン牛」の意味・わかりやすい解説

クローン牛
くろーんうし

親と同じ遺伝情報をもつウシで、1996年にイギリスで作出されたクローン羊ドリー」と同じように成体(大人)の体細胞から生まれたものと、従来の受精卵分割・核移植によるものとがある。技術的には受精卵クローン牛のほうが古く、1987年アメリカで初めて誕生し、日本では1990年(平成2)に誕生した。その後、実用化技術として一部のウシの生産に活用されてきた。農林水産省統計によると、食肉用としては1993年から、牛乳用としては1995年から出荷された。食肉用として累計約350頭出荷されたが、2020年(令和2)時点で、育成・試験中の受精卵クローン牛数は1頭で、飼養している研究機関も1機関である。

 一方、成体の体細胞からクローンを作出する(体細胞クローン)技術の開発は、1990年代に活発化した。日本ではクローン技術を利用した優良家畜の生産プロジェクトが、国や地方自治体の研究機関、民間企業で活発に進められ、その結果1998年7月、近畿大学と石川県で、成体のウシの体細胞を使った世界初のクローン牛が「かが」と「のと」の双子牛として誕生した。その後、各地で体細胞クローン牛が誕生したが、死産や誕生後に死亡する子牛が多く、体細胞クローン技術の当初に期待された、優良な肉質乳量の牛の生産という研究目的の達成は順調とはいえない。2018年(平成30)5月に「のと」が、2019年10月に「かが」が、約20年の牛の寿命を終えて死亡し、日本の体細胞クローン牛の研究が一つの区切りを迎えた。2020年時点で、育成・試験中の体細胞クローン牛は7頭である。体細胞クローン牛は、食用としての安全性に関する見解などから、世界中をみても商用出荷に至ってはいない。また、ウシ以外のクローンのブタヤギも、日本を含めて世界各地で誕生しているが、いずれも試験研究のレベルにとどまっている。

[飯野和美 2021年9月17日]

『〔WEB〕農林水産省農林水産技術会議『家畜クローン研究の現状について』 https://www.affrc.maff.go.jp/docs/clone/kenkyu/clone_20200930.html(2021年8月閲覧)』『〔WEB〕農林水産省『クローン研究機関における体細胞クローン技術を用いた家畜の研究情報の参考資料』 https://www.affrc.maff.go.jp/docs/clone/kenkyu/attach/pdf/clone_20200930-2.pdf(2021年8月閲覧)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「クローン牛」の意味・わかりやすい解説

クローン牛【クローンうし】

親とまったく同じ遺伝情報を持った牛。1997年2月米国のABSグローバル社が初めて開発に成功した。これは,あらかじめ核を取り出しておいた未受精卵に,成長した牛の体細胞から取り出した核を移植する方法で行われたもの。体細胞を提供した牛と生まれた子牛は完全に同一の遺伝子を持つ(体細胞クローン)。哺乳動物クローンが作られたのは,1996年7月に英国で誕生したクローン羊に次いで2種目。日本では1998年7月,石川県畜産総合センターが成牛の卵管上皮細胞や卵丘(らんきゅう)細胞を使った体細胞クローンによるクローン牛の開発に世界で初めて成功した。この技術が確立すれば生産能力の高い牛を大量に生産できるようになり,さらに個体差がなくなるため高品質の畜産物の安定供給も可能になる。希少動物の増殖や絶滅した動物の復活などへの応用も不可能ではない。その一方で,人間にも応用しうる技術であるため倫理的な問題が大きく,各国で議論が高まっている。1999年現在,農林水産省は日本で生育しているクローン牛は35頭と報告。

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世界大百科事典(旧版)内のクローン牛の言及

【クローン】より

…この技術を用いたものが遺伝子工学で,基礎的研究,応用面にひじょうな効力を発揮するものと思われる。遺伝子工学【岡田 節人】
[クローン羊とクローン牛]
1996年にイギリスのイアン・ウィルムットらは〈ドリー〉と名付けられたクローン羊をつくりだすことに成功した(論文発表は97年2月)。これはメス羊の未受精卵の核を除去し,別のメスの乳腺細胞の核を移植することによって生まれたもので,ドリーはメス羊とまったく同じ遺伝子をもつところから,クローン人間の可能性とそれがはらむ倫理的問題をめぐって大きな議論を呼んだ。…

※「クローン牛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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