日本大百科全書(ニッポニカ) 「クローン羊」の意味・わかりやすい解説
クローン羊
くろーんひつじ
親の核と同一の遺伝情報をもつヒツジ。1996年7月にイギリス・ロスリン研究所がその誕生に成功し、「ドリー」と名づけられた。ドリーの誕生は1997年2月に発表された。成長したメスのヒツジの体細胞の核だけを、別の成長したヒツジの未受精の卵細胞の核を除いたところへ移植し、化学処理によって分化と細胞分裂をおこさせ、さらに別のヒツジの子宮に移植して代理母として育てさせ、出産によって誕生させた。この過程のうち、カギとなったのは分化・細胞分裂をおこさせる技術。従来の受精卵分割・核移植などのクローン動物作出技術に対して、この技術を用いると親の遺伝情報をそのまま受け継ぐことができる。さらに、導入する核にあらかじめ有用な遺伝子を遺伝子導入できれば、特定の機能はもっているが、その他は親と同じ遺伝情報の動物を誕生させることが可能になる。実際にロスリン研究所では、1997年7月ヒトのある遺伝子を組み込んだクローン羊「ポリー」の開発にも成功している。これは動物工場に通じる技術である。なお、ドリーは1998年4月、別種のオスのヒツジとの自然交配により「ボニー」(メス)を出産、さらに1999年には3頭を産んだが、2003年2月肺の疾患により安楽死処分とされた。その後も、ドリーの開発者であるイアン・ウィルムットIan Wilmut(1944―2023)は、その技術をベースにヒト・クローン胚(はい)の研究を推進していた。しかし京都大学教授の山中伸弥(しんや)らが新型万能細胞であるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作出に成功したことが公表された後、2007年、ウィルムットは自らの手法による開発の断念を発表した。
[飯野和美]