日本大百科全書(ニッポニカ) 「クワガタムシ」の意味・わかりやすい解説
クワガタムシ
くわがたむし / 鍬形虫
stag beetle
昆虫綱甲虫目クワガタムシ科Lucanidaeに属する昆虫の総称。世界各地に分布するが、熱帯、亜熱帯域の森林地帯に多く、およそ1200種が知られ、日本には35種が産する。体長10~100ミリメートル(大あごを含む)。一般に長形でやや平たい。頭は大きく、とくに雄では大あごが角(つの)状に発達して前方へ突出し、これを支える頭胸部もそれに伴って大きくなる。そのため、同じ種でも個体の大きさによって形が違っていることが多い。大あごは内側にいくつか突起をもつことが多く、大きく発達したものは兜(かぶと)の鍬形(くわがた)を思わせるのでクワガタムシの名がある。触角は第1節と2節の間で膝(ひざ)状に屈曲し、先端3~7節は内方に突起状に伸びる。腹部腹板は5節。成虫は主として初夏から盛夏に現れ、カシ、クヌギ、ナラなど広葉樹の樹上におり、一部は樹液に集まる。多くの種は昼間は樹木の洞、皮下、根際に隠れ、夜間に活動するが、ツヤハダクワガタ、マダラクワガタ、チビクワガタなどのように朽ち木にすむものもある。幼虫はジムシ形で、普通朽ち木や木くずを食べて育ち、その中で蛹(さなぎ)になる。成虫になるのは冬から春にかけてが多いようで、羽化してからかなり長い間蛹室(ようしつ)の中にとどまることが多い。成虫の寿命は、飼育では数年に及ぶものがあり、最高7年といわれる。幼虫期は1年から数年らしい。飼育には、朽ち木とその細片を容器に入れ、餌(えさ)には糖蜜(とうみつ)か蜂蜜(はちみつ)、果実を与える。
成虫は黄褐色から黒色のものが多いが、南アメリカのコガシラクワガタ属Chiasognathus、オーストラリアのキンイロクワガタ属Lamprimaなど美しい金属色の類もあり、日本にいるルリクワガタPlatycerus delicatulusなどは青藍(せいらん)色に光る。日本産の大形な種にはミヤマクワガタ、オオクワガタがあり、雄は体長70ミリメートルに達する。代表的な種にはノコギリクワガタ、コクワガタ、アカアシクワガタ、ヒラタクワガタなどがあり、ミクラミヤマクワガタ(伊豆諸島御蔵島(みくらじま))、スジブトヒラタクワガタ(奄美諸島(あまみしょとう))、ヤマトサビクワガタ(徳之島)、オガサワラチビクワガタ(小笠原諸島(おがさわらしょとう))などは特異な固有種である。
[中根猛彦]