改訂新版 世界大百科事典 「クワガタムシ」の意味・わかりやすい解説
クワガタムシ (鍬形虫)
甲虫目クワガタムシ科Lucanidaeに属する昆虫の総称。熱帯地方を中心に世界から約1000種,日本から約30種が知られている。触角は第1節が長く,第2節との間がひじ状に曲がり,先の数節が櫛状になっていること,腹部が5節などの特徴がある。主として夜間活動し,樹液に集まる。色彩も黒色や褐色のものが多い。雄は雌に比べて一般に大あごが著しく発達する。大あごを冑の飾金具のくわ形にみたててクワガタムシと名づけられた。また,その形がシカの角に似るところにこの科の英名stag beetleは由来する。発達した雄の大あごは敵をはさむのに役だつが,木をかじることはできない。雌は短い大あごで枯木や朽木に傷をつけ,その中に1個ずつ産卵するものが多い。雌雄による大あごの相違は体の大きい種において顕著であるが,同一種の雄の中にも個体差が見られるものがある。ノコギリクワガタProsopocoilus inclinatusの大あごは大歯型,中間型,小歯型に大別できる。幼虫の多くは広葉樹の枯木や朽木に穿孔(せんこう)するが,御蔵島産のミクラミヤマクワガタLucanus gamunusのようにイネ科植物が生えた土壌中に生息する種もいる。幼虫はコガネムシ科の幼虫に似ている。大あごが頑強で木をうがつのに適している。体は乳白色円筒形で,腹方へC形に曲がり,3対の胸脚があるが,尾突起を欠く。幼虫期間はルリクワガタPlatycerus delicatulusなどでは1年余りであるが,2~3年を要するものも少なくない。しかし同一種でも,その環境で著しい差を生ずる場合が珍しくない。通常は3齢までで,3回目の脱皮で蛹化(ようか)する。秋,成虫になったものは,木の中でそのまま越冬する。成虫の寿命はオオクワガタDorcus hopeiなどでは比較的長く,3年余りも生きることがある。飼育中の成虫にはリンゴなどを与え,冬季はやや湿ったおがくずの中にもぐりこませる。オオクワガタはコクワガタMacrodorcas rectusと同様にクヌギ類に見られるが,生息地は局地的である。雄では体長7cm余りになる個体がある。そのほか,大型の種としてミヤマクワガタL.maculifemoratus,ヒラタクワガタDorcus titanusなどが知られる。
執筆者:林 長閑
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報