グノーシス(ギリシア語の「知識」「認識」)によって救済を得ると信じる、既存諸宗教(とくにキリスト教)の分派。グノーシス(主義)は人間個人の本来的自己の認識を救済とみなしたために、救済機関としての教団組織への帰属を救済の条件としなかった。またこれは、多くの場合、既存の諸宗教の内部におこり、それらの宗教のテキストを自己に固有な反宇宙的二元論の立場から解釈し直して、グノーシス神話をつくりだした。そのためにグノーシスは、既存の諸宗教に寄生しつつ、それらのなかで多くの分派を形成することになる。
グノーシス派は元来、「グノーシス」を偽称したために、教父たちによって正統教会から排除されたキリスト教異端の総称である。教父たちによればグノーシス派は、同派の「父祖」といわれるシモンとその派をはじめとして、ウァレンティノス派、バシリデス派、ナハシュ派、オフィス派(「ナハシュ」はヘブライ語で、「オフィス」はギリシア語で、それぞれヘビの意)、パルベロ派、セツ派などの分派に分かれた。しかしセツ派などは、おそらく元来キリスト教とは無関係に、ユダヤ教の周辺で成立したものと想定される。このような非キリスト教グノーシス派の存在は、ヘルメス文書、とりわけナグ・ハマディ文書によって確認されつつある。
[荒井 献]
『荒井献著『原始キリスト教とグノーシス主義』(1971・岩波書店)』▽『荒井献著『隠されたイエス――トマスによる福音書』(1984・講談社)』▽『柴田有著『グノーシスと古代宇宙論』(1982・勁草書房)』
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古代キリスト教の異端。2世紀にアレクサンドリアなどに現れた神秘思想がキリスト教と結びついたもので,その説くところは一様でないが,徹底した霊肉二元論を唱える点は共通である。天上界の最高神と地上界の造物者,霊的キリストと歴史的イエスを区別し,キリストは造物者によって創られたイエスに宿ったが,イエスが十字架に死する前にキリストは去ったとし,物質界の無知から解放されて霊的世界の英知を覚知する者は,不死を与えられ,天上界に住むと説く。3世紀には衰えた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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…〈キリスト仮現論(説)〉と訳される。2世紀以前の初期グノーシス派(グノーシス主義)と神秘宗教から出たもので,キリストは真に肉体の姿をとったのでも,死の苦しみを味わったのでもなく,その受肉と十字架は単なる見かけ,仮象doxaにすぎず,またキリストが無罪であるのはこの世ですでに霊を所有しているからだ,と主張する。90年ころ書かれた《ヨハネの第1の手紙》は,これを主張する者をアンチキリストとして排撃しているが,その集団を特定することはできない。…
※「グノーシス派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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