グルカゴノーマ

内科学 第10版 「グルカゴノーマ」の解説

グルカゴノーマ(膵神経内分泌腫瘍)

(2)グルカゴノーマ(glucagonoma)
概念
 本症は1966年にグルカゴンを産生する膵腫瘍として発見された.グルカゴンは膵臓のLangerhans島のα細胞で産生されるホルモンで,生理的作用は肝における解糖系の抑制,アミノ酸の酸化と糖新生,グリコーゲンの分解促進,脂肪細胞における脂肪の分解促進である.グルカゴンの過剰産生によって皮膚病変,糖尿病,体重減少,低アミノ酸血症,口内炎などの多彩な臨床症状が出現することからグルカゴノーマ症候群(glucagonoma syndrome)とよばれる.
疫学
 膵神経内分泌腫瘍のうち約5%の発生頻度で,MENⅠ型の合併率は約4%である.腫瘍は通常単発で膵体尾部に好発し,インスリノーマに比べて腫瘍径が大きく,腫瘍径の増大とともに転移例が増加する.本症の50〜80%が悪性で,診断時に50%以上の症例で転移を伴い,腫瘍径が5 cm以上の症例の約60〜80%に周囲への浸潤や肝転移や近傍リンパ節転移などが認められる.
病態
生理
 グルカゴンの産生過剰により肝でのグリコーゲンの分解と糖新生が亢進して耐糖能異常,体重減少が起こる.グルカゴンの過剰分泌のうち生物活性の低いプログルカゴンが増加している例や,インスリンソマトスタチンなどの拮抗ホルモンが同時に産生される例では,糖尿病が軽度で症状発現が遅れることがある.また,糖新生によりアミノ酸の消費が増加し,低アミノ酸血症となる.
臨床症状
 症状は糖尿病,壊死性遊走性紅斑(necrolytic migratory erythema),体重減少,貧血,低アミノ酸血症,口内炎・舌炎,腹痛下痢などの消化器症状,静脈血栓症,精神神経症状などが認められる.糖尿病は半数以上の症例でみられるが,多くは軽度から中等度でインスリン分泌量は保たれていて,ケトアシドーシスを呈することは少ない.皮疹は特徴的で壊死性遊走性紅斑とよばれ,紅斑が腰部,会陰部から顔面,四肢に広がり,移動性で周期的に繰り返される.皮疹は1〜2週間で融合して地図状に大きくなり,中心部は治癒傾向を呈する.水疱,膿疱,びらん,落屑などを生じ,痛みや痒みを伴う.粘膜には口内炎,口角炎,舌炎が出現する.壊死性遊走性紅斑は本症以外の疾患でも認められるが,アミノ酸の補充により改善することから,低アミノ酸血症が原因の1つと考えられている.
診断
 本症を疑わせる症状がある症例に対して,血中グルカゴン濃度の測定と血中アミノ酸濃度の測定を行う.血中グルカゴン値の測定は肝硬変腎不全などの疾患でも高値を示すことがあるが,血中グルカゴン濃度が500 pg/mL以上では本症の可能性が高い.食事負荷試験で食後のグルカゴン濃度が抑制されない場合には本症を疑う所見である.広範な低アミノ酸血症の発現頻度は高い.正球性正色素性貧血,低アルブミン血症も認められるが,非特異的な所見である.
局在診断
 【⇨(1)Zollinger-Ellison症候群の局在診断】
鑑別診断
 肝硬変,腎不全,ケトアシドーシスを伴う糖尿病,火傷,外傷,心筋梗塞,敗血症,Cushing症候群,家族性高グルカゴン血症などでも血中グルカゴン値が高値となることがある.
治療
 皮膚症状に対してアミノ酸補充や抗菌薬の投与,静脈血栓症の予防として抗凝固療法を行う.外科的治療,薬物療法としてソマトスタチンアナログと化学療法,肝転移例に対する治療はZollinger-Ellison症候群を参照.[清水京子・白鳥敬子]
■文献
Imamura M, Takahashi K, et al: Usefulness of selective arterial secretin injection test for localization of gastrinoma in the Zollinger-Ellison syndrome. Ann Surg, 205: 230, 1987.
Raymond E, Dahan L, et al: Sunitinib malate for the treatment of pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med, 364: 501-513, 2011.
Yao JC, Shah MH, et al: Everolimus for advanced pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med, 364: 514-523, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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