日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲティ・センター」の意味・わかりやすい解説
ゲティ・センター
げてぃせんたー
Getty Center
アメリカのロサンゼルス郡にある美術館、研究所などの複合施設。1997年、サンタ・モニカ市の北側にあるブレントウッドの丘に開館。
石油業で財をなしたJ・ポール・ゲティは、1953年ポール・ゲティ美術館トラストを設立し、翌年、ロサンゼルス、マリブ(現、サンタ・モニカ市パシフィック・パリセーズ)の自らのランチ・ハウス内に小さな美術館を開館。1974年新たにマリブの海岸沿いに古代ローマのビラ(別荘)を模して美術館を建てた。その後1976年に死んだゲティの遺産をもとに、ブレントウッドの丘に1982年ゲティ・センターの設立が計画され、ポール・ゲティ美術館、美術史人文科学研究所(現、学術研究所)、修復研究所、美術教育研究所、情報研究所、美術館運営研究所、ゲティ助成プログラム(現、ゲティ財団)の七つの組織からなるセンターが誕生した。建物は、洗練されたモダニズムを作風とするアメリカの建築家リチャード・マイヤーの設計である。ゲティ・センターは美術館広場を中心として、五つのパビリオンに分かれている。なお、美術教育研究所と情報研究所は1999年に解散し、美術館運営研究所は2010年、クレアモント大学院大学に移管された。
美術館のコレクションは、ゲティが1930年ごろから収集を始めたコレクションをもとにしている。なかでも重要なコレクションは、ゲティ自身が収集した18世紀フランスの家具工芸品、ケルンにあるルートウィヒ美術館で知られるドイツのコレクター、ペーター・ルートウィヒPeter Ludwig(1925―1996)が収集した144点の中世装飾写本、ロバート・メープルソープを世に出したことでも知られる美術コレクターのサミュエル・ワグスタッフSamuel Wagstaff(1921―1987)が収集したさまざまな写真家のビンテージ・プリント、自らも写真家であったアーノルド・クレインArnold Crane(1932―2014)の個人コレクションによる写真などである。
また、学術研究所には、100万冊以上(2021年現在)の図書や雑誌、目録、200万枚以上(2021年現在)の研究用写真のコレクションのほか、特別資料としてフランク・ロイド・ライトのドローイングや書簡、クレメント・グリーンバーグやエリ・リシツキーの書簡、資料、スイスのキュレーターであるハロルド・ゼーマンHarold Szeemann(1933―2005)の資料などが収集されている。一方、助成プログラムでは、世界各地の遺跡や歴史的建造物、町並みの保存などにも資金を援助する。
ゲティ・センターが開館した1997年にいったん閉館したパシフィック・パリセーズの海岸沿いの元の美術館は改修を経て、2006年、比較考古学と古代美術の専門館「ゲティ・ビラ美術館」として開館。
[鷲田めるろ 2021年12月14日]