聖遺物(読み)セイイブツ(英語表記)reliquiae[ラテン]

デジタル大辞泉 「聖遺物」の意味・読み・例文・類語

せい‐いぶつ〔‐ヰブツ〕【聖遺物】

主にローマカトリック教会で、イエスキリスト聖母マリア聖人遺品または遺骨をいう。信仰の対象となる。

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精選版 日本国語大辞典 「聖遺物」の意味・読み・例文・類語

せい‐いぶつ‥ヰブツ【聖遺物】

  1. 〘 名詞 〙 カトリック教会で、それと認められた聖者の遺骸の一部、また、その着衣や持ち物に対する尊称

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改訂新版 世界大百科事典 「聖遺物」の意味・わかりやすい解説

聖遺物 (せいいぶつ)
reliquiae[ラテン]

教祖や聖人の遺骸,遺品に対する尊崇は洋の東西を問わず多くの宗教に見られるが,通常はとくにキリスト教の諸聖人の遺骸や遺品をさす。奇跡を生む力があると信じられ,とりわけ中世ヨーロッパにおいて,有名な聖遺物を奉安する聖堂修道院には巡礼が集まった。民衆の信仰の本質は聖遺物崇拝であった,少なくともそれが決定的な活力を信仰に供給していたと考えられる。4世紀にはすでに聖遺物崇拝が定着している。聖マルティヌス(サン・マルタン)の臨終(397)には,トゥールポアティエの住民が集い,遺骸の帰属をめぐって争った。9世紀にはローマから殉教者の遺骨を北ヨーロッパの諸修道院へ輸送斡旋したデウスドーナなる人物の活躍が知られている。遺骸の存在しえない場合にはゆかりの品が求められた。例えば南イタリアのモンテガルガノには,大天使ミカエルが巌頭に残したという真紅マントがあった。イエス・キリストやマリアについても同様だが,キリストのへその緒だけは地上に残されたはずと信じられた。十字軍が始まると東方から大量の聖遺物が流入する。ルイ9世は,キリストの荆冠を得てパリにサント・シャペルを献堂したし,受胎告知の日にマリアが着ていたという胴着はシャルトルのノートル・ダム(聖母)大聖堂に安置された。受難の日に聖女ベロニカがキリストの汗をぬぐい,ために顔形が写ったという聖顔布(スダリウムsudarium)は教皇代理アデマール・デュ・ピュイAdémar du Puyによって発見され,南フランスのカドゥアンにもたらされた。最初から墓所である場合や,トマス・アクイナスのように死後ただちに分骨された場合は別として,多くの聖遺物は後年奇跡とともに〈発見〉されている。星に導かれて発見に至ったという聖ヤコブ(サンチアゴ)などは,その代表的な例とされる。これは,聖遺物の出現よりもその信仰ないし待望が,先行したことを物語っている。

 聖遺物の認証は本来司教の権限であったが,第4ラテラノ公会議(1215)はこれを教皇に限定した。聖遺物の争奪や真贋をめぐる紛議もまれではない。コンクの聖女フィデスFides(フォアFoy)の遺骸も,もとアジャンにあったのをコンクの僧が多年の辛苦の末に盗み出したものである。ベズレーの修道院は11世紀以来マグダラのマリアの骨を有して巡礼を集めたが,13世紀プロバンスのサン・マクシマンが真の骨を発見したと称して長く対抗した。聖遺物を獲得した霊場は〈移葬記〉を作成することが多い。聖遺物の真正を主張するために入手経路を記録したもので,その中には盗んだとするものがある。また,聖遺物によって生ずる奇跡を記録して〈奇跡録〉が編まれることもある。ランスの《聖ジブリアン奇跡録》(12世紀)は,4ヵ月間に102件の奇跡を記録している。聖母ゆかりの品を秘蔵する霊場で作られた奇跡録が成長して,特定場所での記録という性格を失い聖母鑽仰の文学となる場合もあった。ゴーティエ・ド・コアンシーGautier de Coincyの《聖母マリアの奇跡》などがその例である。聖杯伝説は,最後の晩餐で用いられたうえに十字架から滴るキリストの血を受けたという幻の杯の伝説である。この最大の聖遺物は完全な騎士だけが発見できるとされて,騎士道文学の主題となった。
聖人
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「聖遺物」の意味・わかりやすい解説

聖遺物
せいいぶつ
relique; relics

聖者の遺体,またはそれに触れた物 (衣服,所持品) 。聖者崇敬のしるしとして尊敬される。キリスト教では古来殉教者崇敬と並んで行われ,4世紀にキリストの十字架や聖人たちの聖遺物の発見,聖遺骨のコンスタンチノープルへの移転を機に崇敬が盛んになり,交換,収集,巡礼が行われてきた。聖遺物は聖遺物匣 (こう) に納めて祭壇などに安置される。売買厳禁。 11月5日が全聖遺物の祝日。東方ではむしろ聖画像に崇敬が集中。宗教改革者は否定。仏教では仏陀の遺骨が分与されたのをはじめ,教義的裏づけのもとに崇敬が盛んである (仏舎利,仏足跡など) 。イスラムでも聖遺物崇敬の風習がある。

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世界大百科事典(旧版)内の聖遺物の言及

【祭壇】より

…祭壇は現在でも多くの教会で聖卓Holy Table,聖餐卓Communion Tableと呼んでいるように,〈最後の晩餐〉にならって十字架の犠牲がくり返しささげられる場であり,人間の祈りと聖霊との交わりの場であると理解されている。3世紀以来殉教者の墓で聖餐を守る習慣が生まれたことから棺の形にしつらえた石の祭壇となり,殉教者の遺骨や遺物(聖遺物)は聖別された祭壇の中か,聖遺物匣(ばこ)に入れるカトリック教会の慣習の起源となった。6世紀以降個人的ミサが行われるようになって主祭壇と並んで副祭壇がつくられるようになり,また旅行などに携帯祭壇も用いられた。…

【巡礼】より

…シャルトルやル・ピュイ・アン・ブレをはじめ,巡礼者の集まったマリアの霊場も数多い。 巡礼者は聖人の墓所つまり遺骸のある所,そうでない場合にも遺品のある所に集まったので,聖遺物崇拝と密接に関係している。規模の差こそあれ,聖遺物を保持して巡礼者を集めた教会堂は全西欧におびただしく存在し,盛衰を繰り返したのである。…

※「聖遺物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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