デジタル大辞泉 「甘酒」の意味・読み・例文・類語
あま‐ざけ【甘酒/×醴】
[類語]酒・
一夜(ひとよ)酒ともいい,醴(れい)とも書く。醴は,中国で古く行われており,日本でも応神紀に名が見える。《令義解(りようのぎげ)》職員令の造酒司の項には,甘い酒で,こうじを多く米を少なくして作り,一夜で熟す,とある。《延喜式》によると,盛夏に蒸米と米こうじに酒を加えてつくっており,いまの白酒に近い甘い酒であったと思われる。仕込みに酒を使わぬ現在のような甘酒が見られるのは《本朝食鑑》(1697)あたりからのことになる。製法には〈かた造り〉と〈薄造り〉があり,前者は飯と米こうじを等量に混ぜ,後者では,等量に混ぜたものの全容量に対し,その半量ないし等量の湯を加える。こうして55℃前後に一昼夜保つと,飯および米こうじに含まれるデンプンが,米こうじのもつ糖化酵素により分解されてブドウ糖になり,甘味を呈するようになる。糖化温度が50℃以下になると乳酸菌,納豆菌などが繁殖して,風味は著しく劣化する。また,温度が60℃以上になると酵素が失活し,糖化が進まない。上記の適温保持が難しい場合は,薄造りに加える湯のかわりに薬局で醸造用乳酸かクエン酸を求め,これを1~2%入れた水を使えば,30~40℃でも風味のよい甘酒がつくれる。
執筆者:菅間 誠之助
甘酒は神社の祭りや年中の行事のときにつくった。神社の場合には当番がきまっており,神前に供えたのちに参拝者たちに分与した。その印象が強かったので,祭りの呼名を〈甘酒祭〉とするところは各地にある。酒税法が施行されてからは,国税庁の許可を得たところだけが濁り酒をつくり,そのほかは甘酒を用いている。たとえば,大分県杵築市の旧大田村の白鬚(しらひげ)田原神社の〈どぶろく祭〉は国税庁の許可を得て,10月18日に行っている。醸造は祝組(ほうりぐみ)・神元(じんがん)・杜氏(とうじ)の3者がいっしょに,境内の醸造庫でつくり,神前に供えたのち神輿(みこし)の渡御に加わり,渡御が終わったのちに一般参加者へふるまいが行われる。このように特定の日に飲むのが甘酒であったが,近世以降は都市を中心とした大きな神社や寺院の境内,門前などで甘酒を売る店ができたり,甘酒売が町を流して歩くようになり,ふだんでも飲むようになった。
執筆者:坪井 洋文
〈甘い,甘い〉と呼売して歩いた甘酒売は,昭和初年ころまで東京の下町では冬の夜のかかせぬ景物であった。しかし,《守貞漫稿》によると,京坂の甘酒売は夏の夜だけ商売し,江戸のそれは一年中売り歩いていたという。こうしたことから甘酒を夏の物とする説もあるが,江戸では18世紀の半ばころまでは,やはり冬だけの商売であった。浅草の東本願寺門前の甘酒屋は有名な店であったが,ここで四季ともに売ったことから,暑中の甘酒売が出現したといわれる。
執筆者:鈴木 晋一
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米麹(こめこうじ)の酵素の作用を利用して、デンプン質を糖化した甘い飲み物。一夜酒(ひとよざけ)、なめ酒ともいい、醴とも書く。中国にも似たような飲み物はあるが、それは酒醸(チウニャン)といい、酒薬(チウヤオ)で糯米(もちごめ)を糖化したもので、米麹でつくる甘酒は日本固有のものである。甘味の少なかった江戸時代に珍重された。飯を炊いて、これに約半量の水を加え、60℃ぐらいにし、米麹を米と等量加えて保温ジャーに入れ、55~60℃で6~8時間あるいは一夜保つと、糖化は完了する。煮立てて殺菌しておくのがよい。酒粕(さけかす)を利用する場合は、酒粕1キログラムに約40℃のぬるま湯を2~3リットル入れ、火にかけ、ゆっくり加温する。粕がほぐれてきたら、砂糖を約500グラム加え、煮立てて飲む。アルコール分を少し含み、タンパク質と酵母に富む酒粕のエキスである。
[秋山裕一]
『日本書紀』に応神(おうじん)天皇に醴酒(こさけ)を献じた旨がみえ、甘酒の歴史の古いことがわかる。中国や朝鮮にも古くから醴があった。日本では甘酒は元来、日常用よりはハレの日のもので、とくに神供に用いられ、甘酒祭が各地に行われてきた。埼玉県北葛飾(きたかつしか)郡では9月9日の祭礼を甘酒祭とよび、新穀で甘酒をつくり、豊作を祝う。淡路島の津名郡では10月20日の地(じ)の神祭を甘酒節供ともいい、甘酒をつくって供える。長崎県対馬(つしま)では6月初午(はつうま)に、天童(てんどう)信仰に基づくヤクマ祭が催され、麦甘酒をつくり、甘酒団子を川の傍らに供えた。江戸時代、江戸や京坂には甘酒売りの行商が盛んで、甘酒釜(がま)を箱に入れて担ぎ、「あまーい、あまーい」と触れ歩いた。社寺の門前には祭礼縁日の客目当てに腰掛け店を構えるものも現れた。初めは寒い季節に熱くして売ったが、やがて暑中にも好まれるようになった。俳諧(はいかい)では「一夜酒」「醴酒」「甘酒売り」とともに「甘酒」は夏の季語。
[竹田 旦]
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