改訂新版 世界大百科事典 「コトドリ」の意味・わかりやすい解説
コトドリ (琴鳥)
lyrebird
スズメ目コトドリ科Menuridaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。この科の鳥はコトドリとアルバートコトドリの2種があり,オーストラリア東部に局地的に分布する。両種とも羽色はじみだが,雄は独特の形の尾羽をもち,繁殖期にこの尾羽を広げてディスプレーをするので有名。その尾羽を竪琴に見たてて,コトドリの名がある。彼らは森林にすむ地上生の大きな鳥で,雄のほうが雌より少し大きく,コトドリMenura novaehollandiaeの雄は全長80~97cm(このうち尾羽は約55cm),アルバートコトドリM.albertiは雄約90cm,雌約65cm。羽色は雌雄同色。コトドリは頭上から背が濃い灰褐色,腰はやや褐色みが強い。胸腹部は銀灰色,喉部(こうぶ)は赤褐色。尾羽は雌では背と同色で正常な形だが,雄の尾羽は特殊な飾羽になっている。アルバートコトドリは頭部は灰色,背,腰,翼は褐色,胸腹部は灰色で喉部は赤褐色。雌の尾羽はふつうの形で褐色。雄の尾羽は飾羽となり,最外側羽は幅が広く灰紫色,他の尾羽は黒色でレース状ないし針金状である。
コトドリの雄は,繁殖期になると各個体が森林内に8000~4万m2のテリトリーをもち,その内部に数ヵ所のディスプレー場をつくる。このディスプレー場は,林床の枯葉や枯枝などを取り除き,直径約1m,高さ15cmほどの土の台でつくられている。雄はこの台の上や近くの低木の枝上で,さえずりながらディスプレーを行う。この科の鳥はクサムラドリ科の鳥と同様に,他の鳥の鳴声やさまざまな物音をまねるのがうまく,ディスプレー中にこの物まねの鳴声も用いる。そして,長い尾羽を垂直に立て,しばしば頭上にかぶさるほど前傾させ,竪琴の糸のように見える白いレース状の尾羽の内側羽と竪琴の枠のような尾羽の最外側羽を広げてディスプレーする。雌はこのディスプレーにひきつけられて集まるのであるが,1羽の雄は数羽の雌と交尾する。交尾後の雌は林床のくぼみや巨木の根の陰などに枯枝,木の葉,細根,蘚苔(せんたい)類,羽毛などを用いて側部に出入口のある目だちにくい巣をつくる。1腹の卵は1個,抱卵と育雛(いくすう)はすべて雌が行う。抱卵日数は長く,約6週間,雛は孵化(ふか)後さらに約6週間巣内で育てられて巣立ちする。非繁殖期には数羽の群れで生活しているが,これが家族群か否かは明らかになっていない。アルバートコトドリもほぼ同様の繁殖行動をとるらしいが,生息地がきわめて狭く,個体数も少ないので,詳しい研究はされていない。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報