日本大百科全書(ニッポニカ) 「コトドリ」の意味・わかりやすい解説
コトドリ
ことどり / 琴鳥
lyrebird
広義には鳥綱スズメ目コトドリ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。ディスプレーの際に広げられた雄の尾羽が、古代ギリシアの竪琴(たてごと)に似ている瞬間があるので、この英名と和名がある。同科Menuridaeには2種が属し、ともにオーストラリアに限り分布する。種としてのコトドリMenura superba(またはM. novaehollandiae)は南東部沿岸地帯の山地の森林、とくにシダ類の茂った渓谷や、花崗岩(かこうがん)帯に点在する、下草の多い明るい林を好む。全長は雄が約90センチメートル、雌は約50センチメートル。羽色は雌雄よく似ており、灰褐色で頸(くび)の前部と翼は赤みが強い。雄の尾羽はとくに長く約60センチメートルに達し、もっとも外側の左右1枚ずつは幅広くS字状に伸びていて、竪琴の枠に似ている。中央の1枚ずつは白く長いひも状であるが、ほかの尾羽は銀色のレースのように広がっている。5~6月に、雄は地上の落ち葉などをかき集めて直径1メートル弱の小山をいくつもつくり、この上で種々の鳥の歌まねを交えてさえずりながら、尾羽を広げて全身を覆うように前に倒し震わせる。これは求愛のディスプレーではなく、縄張りを誇示する意味しかない。一夫多妻の繁殖様式で、雌は地上や岩の上、木の根元などに、小枝やコケで、側面に出入口のあるドーム形の巣をつくり、1卵を産む。抱卵、育雛(いくすう)ともに雌のみが行う。他の1種アルバートコトドリM. albertiは、ブリズベン市近くの岩石の多い熱帯雨林にすむ。尾はコトドリよりやや短い。ともに飛ぶ力は弱く、大きく強い足で地面をひっかいて、昆虫、ミミズ、カタツムリなどを食べる。
[竹下信雄]