日本大百科全書(ニッポニカ) 「アクセント」の意味・わかりやすい解説
アクセント
あくせんと
accent
もとギリシア語プロソーディアπροσωδαのラテン語訳アッケントゥスaccentusに由来する。一般には、ことばのなかでとくに高くあるいは強く聞こえる部分をいい、音楽では1小節内で強く演奏される部分をいう。転じて服飾などで中心となる目だつ部分をいうこともある。
言語学では、単語中のある特定の音節が他に比べて際だって高く、あるいは強く、高く、長く発音され、それが単語に備わった特徴であるとき、これをアクセントという。個々の語音を分節的特徴とよぶのに対して、アクセントは超分節的特徴とよばれ、「かぶせ音素」とよばれることもある。英語ではpérmit(免許証)のpér、またはpermít(許す)のmítを強くいい、東京方言ではアメ(雨)のア、アメ(飴)のメをそれぞれ高くいうとされるのが、それである。
語源の古代ギリシア語では高さアクセントを示した。のち、ヨーロッパ近代言語のいわゆる強さアクセントに用いる。日本では、古代中国の「声(ショウ)」(四声など)を学び、これを日本語の場合に応用したが、明治以後、アクセントの用語を用い、語調、音調などとよぶ例もある。
英語では単語アクセントをストレスstressとよぶことが多い。名詞と動詞の別を示す例は多いが、意味の区別に役だつことは比較的少ない。ドイツ語では、おもに第1音節に、イタリア語では多くは最後の一つ前の音節にあり、フランス語では末尾の音節にある。フランス語ではアクセントを単語の意味の区別に役だてない。これらの言語では、アクセントは単語、句などを一つにまとめるのに役だつ。英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語などは強弱アクセントまたは強さアクセントstress accent,dynamic accentとされ、日本語は高低アクセントまたは高さアクセントpitch accent,musical accentといわれる。中国語、タイ語なども後者であるが、1母音内での音調変化があるため、声調アクセントともいう。
しかし生理的、音響的実験の結果によれば、英語アクセントにおいても、その生成(発話)と知覚(聞こえ)にもっとも重要な要素は、声帯振動の基本周波数、つまり高さの変化である。日本語では、各単語アクセントによる高低変化は、文脈中においても保たれる傾向がある。英語などでは文中で強調される単語アクセントのある音節だけがとくに高く、強く、長く、また母音が明確に発音される。このため、アクセントは意味の伝達上とくに重要である。
[杉藤美代子]
日本語のアクセント
アクセントの最小単位は拍(またはモーラmora)、大まかには、かな文字がこれを示す。近畿方言のキョオダイ(兄弟)、インリョク(引力)は長音、撥音(はつおん)も単位となる例である。 の上部は、現在の標準語とされる東京アクセントを、下部はかつての標準語であった近畿アクセントを示す。表記は高い部分を線で示し、または高低のくぎりに「印」を用いる。各拍を○印で、高い部分を●で示す場合もある。
東京アクセントの1拍語「エ」(柄と絵)は、エガナガイ(柄が長い)、エオカク(絵を書く)のように、また2拍語「ハナ」(鼻と花)はハナガタカイ(鼻が高い)、ハナガサイタ(花が咲いた)のように、助詞が高く、平らにつくか、または低くつくかにより、型が異なる。単語の拍数をnとすれば、各拍単語にはn+1種類の型がある。近畿アクセントには高起と低起の別があり、2n-1種類のうえに1、2拍語では上昇し、下降する絵(エ)、餌(エ)、雨(アメ)などがある。
東京アクセントの地理的分布は広く、近畿アクセントがこれに次ぐ。ほかに九州の南西部に、多拍語まで2種の型をもつ二型アクセント地域があり、九州中央部と、東北地方の南東部および関東の北東部に、アクセントが意味の区別に役だたない無型アクセント(いわゆる一型アクセント)地域がある。
近畿アクセントは、古文献により、1000年近い昔のそれが推定できる。
には古代の標準語アクセントと、現代の方言アクセントを示した。各単語群が史的、地域的変化において対応関係のあることは興味深い。[杉藤美代子]
『金田一春彦著『国語アクセントの史的研究原理と方法』(1974・塙書房)』▽『平山輝男著『日本語音調の研究』(1957・明治書院)』▽『杉藤美代子「アクセント、イントネーションの比較」(『日英比較講座1』1980・大修館書店・所収)』▽『杉藤美代子著『日本語アクセントの研究』(1982・三省堂)』