コバルスキー(読み)こばるすきー(その他表記)Piotr Kowalski

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コバルスキー」の意味・わかりやすい解説

コバルスキー
こばるすきー
Piotr Kowalski
(1927―2004)

フランスの美術家。ポーランドルブフ(現、ウクライナリビウ)生まれ。工場で機械工として働くかたわら、独学数学・数理論理学を学ぶ。1946年以降海外へ移住しスウェーデン、フランス、ブラジルを転々とし、ブラジル滞在中は建設会社に勤務する。1947年、アメリカ、マサチューセッツ工科大学建築科に入学、在学中に建築家として頭角を現し多くの賞や奨学金を獲得する一方、絵画や彫刻の制作や写真や物理学の実験にも励む。また同大在学中は、サイバネティックス論の提唱者ノーバート・ウィーナーに数学を学んだ。1952年に同大を卒業した後はI・M・ペイやマルセル・ブロイヤーの建築事務所に勤務し、またベネチアCIAM(シアム)(近代建築国際会議)の運営に参加するなど建築家としてのキャリアを積む。1955年にパリに拠点を定め、1958年以降は彫刻作品を発表する機会も多くなった。

 1960年代は建築と彫刻の制作を並行して行い、チュニジアのチュニス駅国際コンペ(1961)やヨーロッパ建築美術館国際コンペ(パリ、1962)に入選する一方、ストックホルム現代美術館記念彫刻展(1964)やグッゲンハイム美術館国際彫刻展(1968)にも出品、1968年にはベネチア・ビエンナーレにフランス館代表作家として参加した。これを機に、コバルスキーの活動における彫刻の比重は一層高まり、1970年代以降は欧米諸国で精力的に作品の制作・展示を展開、また1972年ドイツ学術交流プログラムによる招聘(しょうへい)、1976~1979年シカゴ・メトロポリタン・ストラクチャーズ、1980~1985年マサチューセッツ工科大学先端視覚研究センターで研究・教育活動にも従事した。1990年代以後はパリ、ラ・デファンス地区の『南門』(1991)やセビリア万国博覧会パビリオンのための『光1』(1992)などの大がかりな彫刻作品を手がけている。

 コバルスキーの彫刻はガラスや貴金属をおもな制作素材とし、円錐(えんすい)や円柱をベースとした幾何学的な造形を特徴とする。「既成の知を解体する機械」や「処女を生み出す機械」と自ら称するコバルスキーの彫刻作品には、近代科学錬金術オカルティズムという相反するものへの関心が同居している。彫刻に重心を移して久しいため元々が建築家であったことは忘れられがちだが、作品の幾何学的性質、作品が設置された空間の変質、観客の参加によって作品が成立する双方向性などには、やはり建築家としての素地を指摘することができる。1993年(平成5)には、日本でも水戸芸術館で個展「世紀末サイエンス」が開催され、多彩な活動の一端が紹介された。

[暮沢剛巳]

『「世紀末サイエンス――ピオトル・コヴァルスキー」(カタログ。1993・水戸芸術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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