狭義のレジャーとは,生活時間の中で労働,勉学などの拘束時間と,睡眠,食事,入浴などの生理的に必要な時間を除いた残余の自由時間の過し方を総称する。そしてレジャー産業は,そうしたレジャー活動に対する財・サービスを提供する産業である。
フランスの社会学者デュマズディエJoffre Dumazedierは《余暇文明へ向かって》(1962)の中で,レジャー活動を休息,気晴し,自己啓発(人格の発展)の三つに分類しているが,これに従ってレジャー産業をみると,まず休息は経済的支出がほとんど生じないので除外すると,次の三つに大別できる。気晴しレジャーのうちリリースrelease(発散,解放)的レジャーには,外食,テレビ,レコード,興行などの鑑賞,ゲーム,ギャンブルなどの勝負事,といった産業が含まれる。気晴しレジャーのうちレクリエーションrecreation的レジャーは労働,勉学で消耗した活力を文字どおり〈再(re)生産(creation)〉するためのレジャーで,前者よりは能動的な要素が強まる。スポーツ,観光などがそれで,仕事などの緊張からの一時的解放ではなく,日ごろあまり使わない筋肉を動かしたり,日常生活とは異なった体験をすることによって,明日に備えるものである。最後は自己啓発レジャーで,これは音楽,美術などの創作活動のような趣味,和・洋裁,茶・華道などの〈稽古ごと〉,読書や各種講習の受講などの学習に分けられる。前の二つに比べ,さらに能動的,積極的な性格をもつ。
レジャー産業の規模は1950年代半ばからの高度経済成長とともに急増しはじめ,各レジャー産業を合計した市場金額はこの時期にGNPの10%を占めるまでになった。しかも年々その比重を高めている。第2次大戦後の復興期に人々の気持ちのなかにあった,遊ぶことに対するある種の〈うしろめたさ〉は高度経済成長による所得と消費支出の増加とともに薄れていった。テレビの普及によるマス・メディアの影響,家庭電化による主婦の余裕時間の増加,週休2日制の導入などによって,レジャーに対する意識は拡大し,市場も広がっていった。
しかし,昭和30年代のレジャーの中心は,パチンコ,酒場,野球見物などの盛場での娯楽,つまり前述のリリース的レジャーであった。それが1964年の東京オリンピック大会,70年の大阪万国博覧会といった国際的イベントが契機となって,レジャー産業は大きな変化を遂げた。こうしたイベントは新幹線,高速道路など社会資本を充実させて,レジャーの屋外化,高額化を促した。その一方で,人々のレジャー活動を旅行,スポーツといった高額のレクリエーション活動へ駆りたて,レジャー産業の大型化をもたらした。その後,経済の成長パターンはそれまでの高度成長から低成長に変わったが,人々のレジャーに対する支出は低下せず,GNPに占める比率にも大きな変化はない。
レジャー産業の種類別の動きをみると,大きな市場規模をもつ業種は観光が最大で,これに外食,鑑賞,勝負事のリリース的レジャーを加えると,1973年以降レジャー市場の9割近くを占めている。しかし,ホビーや学習といった自己啓発的なレジャーが少しずつではあるが増えつつある。加えてマニアと呼ばれる個性的・積極的なレジャー活動をする人が増えるにつれて,特定のレジャー産業への集中傾向は薄れつつある。
また日本人のレジャー活動をみると,仕事,勉学などの生活の拘束的な部分と離れがたい部分がある。たとえば観光といっても会社の社員旅行とか仕事がらみのものが多いし,接待と称して飲食,勝負事,スポーツなどをするのは企業社会では日常茶飯事である。こうした,いわば〈半レジャー〉は,日本の企業の終身雇用制に象徴される家族的経営を反映した,組織への帰属意識から生じている。しかし最近では仕事とのけじめをつける欧米人的なレジャー意識,仕事観をもつ人が増えてきて,〈半レジャー〉は減少気味である。
変化は日本人のもつレジャーに対する〈求道性〉という特性にも現れている。茶・華道,ピアノ,ゴルフ,囲碁などの日本人の好むライフサイクルの長いレジャーは,熱中し,ひたむきに努力し,長い研鑽を重ねた末に得られる成果,あるいはその過程に意義を見いだせる種類のものが多く,〈遊び〉とはとてもいえないほど〈道〉を求める。この求道性レジャーもサイクリング,DIY(do it yourself),園芸など手軽な日常的レジャー,コミュニティや家族で楽しむレジャーが増勢にあり,市場に影響を与えつつある。スポーツ,健康志向の高まりで,その分野のレジャー産業が1960年代後半から台頭してきているが,ここでも汗みどろになって苦しむようなものではなく,たとえばジャズダンスのように楽しく運動できるものが好まれている。
なお,レジャー産業は労働集約的であり,また需要が不安定で経営的にリスクが大きいため,担い手となる企業には中小企業が多く,大企業(例えば日本交通公社)は少ない。しかし外食産業のように技術や経営の革新によって生産性を上げることによって経営規模を拡大したり,日本楽器製造(現,ヤマハ)などのように多種のレジャーを多角経営して危険分散を図ることによって経営を安定させている企業が増えてきている分野もある。
執筆者:岡田 康司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人々のレジャー活動に対して、それに必要な用具の製造・販売、施設・用具の提供、レジャー活動の指導を行う産業の総称。
レジャー活動の能動性・積極性を基準に三つに大別される。(1)仕事などのストレスからの一時的な解放を目的とするリリース(発散、解放)型レジャー(外食、テレビ、音楽、興業などの鑑賞、ギャンブルなど勝負事を含む)、(2)非日常的行為を通じて明日への活力を生み出すレクリエーション型レジャー(スポーツ、観光など)、(3)自己実現を意識した自己啓発型レジャー(音楽・美術などの創作活動、和・洋裁、茶・華道など「稽古(けいこ)事」、読書や各種講習会での学習など)に区分される。国内のレジャー市場(余暇市場)は、2000年(平成12)現在85兆0570億円(前年比0.6%減)である(『レジャー白書2001』)。1996年をピークにマイナス成長を続けているが、減少幅は除々に縮少している。
[殿村晋一]
わが国のレジャー産業は、1950年代なかばの高度成長とともに急成長した。パチンコ、酒場、野球観戦など盛り場でのリリース型レジャーが中心で、市場規模もGNPの10%前後から年々その比重を高めてきた。1964年の東京オリンピック大会、70年の大阪万国博などは、新幹線、高速道路など社会資本を充実させ、モータリゼーションを加速化し、旅行、スポーツなどレジャー活動の屋外化、高額化を促し、レジャー産業の大型化を促進した。この時期、企業社会では飲食、勝負事、スポーツを接待に利用する慣行(いわゆる「社用族」)が定着し、社員旅行を含む仕事と結び付いた「半レジャー」が、レジャー産業を支えた面も無視できない。
経済の安定成長への移行後も、レジャーに対する支出は増大傾向をたどり、1980年代に入ると、レジャー活動は個性化し、多様化した。円高を背景に海外旅行がブームとなり、ホビーや学習、さらにはマニアの出現(個性派レジャー)が新市場(クラフト模型など)を拡大させた。茶・華道、ピアノ、囲碁など「求道性」の強いレジャーが、DIY(do it yourself)や園芸など日常的レジャー(手作り文化)と並んで息の長い人気を確保している反面、ジョギングやエアロビクスなど健康スポーツに高齢層を中心とするゲートボールなどが仲間入りしている。
[殿村晋一]
時間帯や曜日、季節による繁閑差や流行のライフ・サイクルの短さなどから経営リスクが大きいため、中小企業が多く、需要立地型労働集約的色合いが強く、パート、アルバイトなど臨時雇用者が多い。大資本も「大型レジャー館」とかディズニーランド型の「大型テーマパーク」に進出しているが、多角経営による危険分散によって経営安定を図っているものも多い。
[殿村晋一]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…さらに1970年代初めから未来産業という言葉も登場し,従来の産業の横断的な,有機的な結合によって成立する海洋開発,宇宙開発,情報,住宅・都市開発,医療,教育,レジャー,エンジニアリング,先端技術産業などという分類が登場している。たとえば,レジャー産業という範疇(はんちゆう)には,第1次産業の植木,園芸が入り,第2次産業のカメラ,楽器,レコード,スポーツ用品,書籍,旅行用品,テレビ,ラジオ製造業など,第3次産業の映画館,劇場,野球場,パチンコ・マージャン店,レストラン,バー,旅館,ホテル経営等,きわめて多岐にわたる産業分類項目が含まれる。このような範疇の統計は日本にもまだないので,産業分析のつど新たにつくり直す作業が必要となる。…
…レジャーの形態が積極的なものから消極的なもの(〈やるスポーツ〉から〈見るスポーツ〉へ,また祭りすら観光客の見るものへ変質)へ多くの場合推移してきていること(若干の逆流もないではないが)も,この過程を容易にする。そうした企業を,ふつうレジャー産業と呼んでいる。狭い意味では旅館,レストラン,映画館,ボウリング場などのサービス・娯楽設備をさしているが,もっと広くはデパートなどもふくめた〈レジャー商品〉の製造・販売業,娯楽的〈情報〉のサービス・提供(マス・メディア,広告産業のある側面,ある機能)を総称するものとして考えてもよい。…
※「レジャー産業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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