システム・アプローチ(読み)しすてむあぷろーち

日本大百科全書(ニッポニカ) 「システム・アプローチ」の意味・わかりやすい解説

システム・アプローチ
しすてむあぷろーち

自然現象や社会現象をはじめとする多くの複雑な事象のなかで発生する問題を解決するときの、意思決定を助ける一つの方法。正しくはシステムズ・アプローチsystems approachという。一般的には、対象とするシステムの目標を規定するすべての要因を抽出し、これらの相互作用の分析・検討によって、要因とその効果との関連を明らかにしようとするもので、システム・アプローチは分析的、部分的、全体的、目的的、機能的、効率的という特質をもっている。各種の手法があるが、マーケティングネットワーク理論、シミュレーション理論が重要である。

[篠原文陽児]

システムの意味

ある事象について、(1)構成要素の間に相互規定関係が存在し、秩序ある全体をなしていること、(2)単一または複数の目的をもつこと、(3)入力inputがあること、(4)出力outputの一部分を入力へ還元するフィードバックfeedback機能をもつことが明らかになったとき、あるいは明らかであるとき、これをシステムとよぶ。システムは下位システムsub-systemからなり、下位システムはモジュールmoduleからなる。モジュールがシステムのなかで操作可能な最小構成単位である。システム、下位システム、モジュールはそれぞれ相対的な概念である。

[篠原文陽児]

手順

システム・アプローチの一般的な手順は、(1)モデルの構築、(2)目標の明確化と目標到達度の測定、(3)代替案または代替方略(ストラテジーstrategy)の列挙と選択、(4)機能、価格、信頼性等の分析、(5)代替案の優劣を決める評価と決定の規則を決めること、である。とくに(2)と(3)はもっとも重要である。

 教育についても、自然現象や社会現象と同様に、この手順を踏まえることが多い。すなわち、システム・アプローチを広く教育事象に適用することによって、教育のもつ目的を科学的にもっとも効果的、効率的に実現しようとする。これを「教育におけるシステム・アプローチ」という。1989年(平成1)と1998年および1999年の学習指導要領改訂により、1960年代の「効率化された教育」は「非効率ではあってもひとりひとりがそれぞれの学習スタイルで興味・関心に応じて学ぶ」という考え方に移行して今日に至っている。さらに、2008年および2009年に改訂された、幼稚園教育要領、小学校学習指導要領、中学校学習指導要領および高等学校学習指導要領で「生きる力」の充実を図る基礎基本の学習が強調されている。教育をシステムととらえ、効率的に教授学習を進めた後の段階にこそ、「興味関心に応じた教育」の理念と考え方が大きな意義をもつと思われる。

[篠原文陽児]

『内川芳美他編『講座 現代の社会とコミュニケーション』全5巻(1973~1974・東京大学出版会)』『ガーラック他著、町田隆哉訳『授業とメディア』(1975・平凡社)』『W・ジェームズ・ポファム、エバ・L・ベイカー著、沼野一男監訳『授業のシステム化』全6巻(1977~1978・玉川大学出版部)』『中野照海編『教育工学』(1982・学習研究社)』『佐伯胖・大村彰道・藤岡信勝・汐見稔幸著『すぐれた授業とはなにか――授業の認知科学』(1989・東京大学出版会)』『中村嘉平・浜岡尊・山田新一著『システム工学通論』新版(1997・朝倉書店)』『岡本薫著『日本を滅ぼす教育論議』(講談社現代新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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