シムズ(読み)しむず(英語表記)Christopher Albert Sims

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シムズ」の意味・わかりやすい解説

シムズ(Christopher Albert Sims)
しむず
Christopher Albert Sims
(1942― )

アメリカの計量経済・マクロ経済学者。ワシントンDC生まれ。ハーバード大学で1963年に数学学士号、1968年に経済学博士号をそれぞれ取得し、ミネソタ大学、エール大学などで教鞭(きょうべん)をとった。1999年からプリンストン大学教授を務める。

 伝統的なケインズ経済学は、財政・金融政策が変更されても、家計や企業など民間部門はこれを織り込んだ行動はとらないという暗黙前提に立脚していた。しかし1970年代後半から1980年代にかけて、サージェントルーカスらを中心に、政府や中央銀行が財政・金融政策をとると、家計や企業はこの影響を予想(「期待」expectations)した行動をとるため、その政策効果は薄れてしまうとの「合理的期待形成仮説(rational expectations hypothesis)」が提唱される。シムズは「Macroeconomics and Reality」(『Econometrica』1980年)などの代表的論文で、マクロ経済政策の効果がどのくらいの期間続くかを実際の時系列データを使って解析する「多変数自己回帰モデル(VARモデル、vector-autoregression model)」を開発。とくに、過去のデータから予期できない「ショック(shocks)」がその後のマクロ経済にどう影響するかを分析するのに成功し、合理的期待形成理論を実証データで裏づけた。シムズが開発した政策分析は、多くの政府や中央銀行が採用している経済分析手法の基礎となっている。2011年に「マクロ経済政策がインフレ雇用などの実体経済に与える影響を分析するVARモデルとよばれる分析手法を開発・発展させた」功績で、ノーベル経済学賞を受けた。ニューヨーク大学のサージェントと共同受賞。

[矢野 武]


シムズ(William Gilmore Simms)
しむず
William Gilmore Simms
(1806―1870)

アメリカの小説家、詩人。サウス・カロライナ州チャールストンの貧しい商人の家に生まれる。故郷を深く愛し、同州を舞台に貴族や開拓者のロマンスを数多く書き、「南部のクーパー」といわれる。小説は3種類に大別でき、辺境ロマンスに『リチャード・ハーディス』(1838)、先住民(アメリカ・インディアン)との戦争ロマンスに『イェマシー族』(1835)、独立戦争ロマンスの系列には『パルチザン』(1835)、『メリチャンプ』(1836)、『キャサリン・ウォルトン』(1851)の三部作および『森林技術』(1854)、『侵略者』(1855)などがある。愛国心、南部精神とその自然に富む著作は、勇将の伝記、詩集なども含め、大小80に上っている。

[稲澤秀夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シムズ」の意味・わかりやすい解説

シムズ
Sims, Christopher A.

[生]1942.10.21. ワシントンD.C.
アメリカ合衆国の経済学者。フルネーム Christopher Albert Sims。ハーバード大学で 1963年数学の学士号,1968年経済学の博士号を取得。1968~70年同大学で経済学を教えたのち,1970年にミネソタ大学教授に就任し,1990年まで勤めた。同 1990年,エール大学ヘンリー・フォード2世経済学教授に就任するが 1999年プリンストン大学に移る。2004年同大学ハロルド・H.ヘルム経済・金融学教授に就任した。経済政策によって経済がどのような影響を受けるかを分析するためベクトル自己回帰分析 VARの手法を開発した。2011年,トーマス・J.サージェントとともにノーベル経済学賞を受賞した。一般に政府や中央銀行が推進する経済政策と,インフレーションや雇用などのマクロ経済変数との因果関係を実証的に研究し,その関係の特性を解明するためのまったく新しい考え方と手法を見出したことが評価された。

シムズ
Simms, William Gilmore

[生]1806.4.17. サウスカロライナ,チャールストン
[没]1870.6.11. サウスカロライナ,チャールストン
アメリカの小説家。初め詩人を志したが,むしろ辺境冒険物語や故郷カロライナを背景にした独立戦争時代の物語など,J.F.クーパーや W.スコットの流れをくむロマンスによって,19世紀前半の最もすぐれた南部作家の一人とされる。ジョージアの土賊を描いた『ガイ・リバーズ』 Guy Rivers (1834) ,1715年のカロライナにおけるインディアンとの戦いを描いて好評を得た『イェマシー族』 The Yemassee (35) をはじめ,『パルチザン』 The Partisan (35) 以下の独立戦争3部作,『侵略者』 The Forayers (55) ,その続編『ユートー』 Eutaw (56) などがある。ほかに歴史書,伝記,また十余巻の詩集もある。

シムズ
Sims, John Zoot

[生]1925.10.29. カリフォルニア,イングルウッド
[没]1985.3.23. ニューヨーク
アメリカのジャズ・テナーサックス奏者。 16歳でプロとなり,B.シャーウッド,B.グッドマンなどのビッグ・バンドと共演,その間2年間の兵役に服した。 1947年 W.ハーマンの楽団に参加,S.ゲッツ,S.チャーロフ,H.スチュアートらと「フォー・ブラザーズ」というサックス・セッションを結成して広く人気を得た。 50年代から 60年代にかけては,グッドマンのヨーロッパ公演に加わり,S.ケントン楽団や,G.マリガンのバンドに参加。また,A.コーンとの2本のテナーサックスによるコンボは,名演として名高い。その後,自身のバンドを率いて L.W.ヤングの流れをくむ音色を聞かせた。 77年グラミー賞受賞。

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世界大百科事典(旧版)内のシムズの言及

【人工生命】より

… ラングトンは,空間的に分布し結合しているオートマトン(セルラオートマタ)のモデルを用いて,生命はカオスの縁へ進化するという示唆を与えた。シムズK.Simsはロボットの形態や神経系を遺伝的に発生させ,箱を奪い合うコンテストの成績により進化させた。リンドグレンK.Lindgrenは通信路に雑音が入る繰り返し〈囚人のジレンマ〉ゲームを行うエージェントを進化させ,進化には終りがない場合があることを示した。…

※「シムズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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