フランスの文芸批評家。本名イザーク・フェリックスIsaac Félix。詩人的直観力を文芸批評の領域に発揮して,繊細な感性と鋭敏な知性を彫琢された文体のなかに融合しつつ,芸術的香気に満ちた数々の批評作品を創造した。その著作では神秘的な禁欲主義と知的な審美主義が表裏一体となって,超俗の文学世界を形成している。偉大な精神の形姿の探究を文業のすべての目的とした彼は,文学,美術,音楽等の諸分野に,動揺し高揚する精神がついには平安を見いだす究極の一点を探し求めて倦むことがなかった。そして彼は,傲然とした孤高の風,絶対への希求の激しさゆえに,文壇的な孤立を強いられたことも間々あった。精神の偉大を求める彼にふさわしく,批評文の代表作には思想や芸術上の巨人を扱ったものが多い。《三人--パスカル,イプセン,ドストエフスキー》(1913),《偉大なヨーロッパ人,ゲーテ》(1932),《三人の偉大な生者--セルバンテス,トルストイ,ボードレール》(1937)などの著作がそれである。
執筆者:若林 真
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フランスの批評家。本名はイザック・フェリックス・シュアレス。マルセイユ生まれのユダヤ人で、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)卒業後、教授資格取得に失敗し、文筆活動に専念する。ロラン、ペギー、クローデル、ジッドらと親交を結ぶが(彼らとの往復書簡集は有名)、文壇的には終始孤立を続ける。イブ・スカントレル、カエルダル、セイプセなどの筆名を用いる。詩、劇、旅行記、エッセイを手がけるが、つねに深い批評的省察を伴う。イタリア美術行脚(あんぎゃ)ともいうべき『傭兵隊長(コンドチエーレ)の旅』Voyage du Condottiere(1910~32)、エッセイ『私の兄の死について』(1904)以来、人間の苦悩、悲惨、死を芸術創造にまで高める「偉大性」のテーマをみいだし、同時に、対象の核心を直観的にとらえ魂のことばに置き換える独自の批評的方法を確立した。時評集『生について』3巻(1909~12)、パスカル、イプセン、ドストエフスキーの批評的肖像を描く『三人』(1913)を代表作として、著作総数はおよそ80。なかでも『ヨーロッパ展望』(1939)は、ヒトラーに偉大さの悪(あ)しき典型をみてとる、罵詈雑言(ばりぞうごん)批評の傑作とされる。
[松崎芳隆]
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