日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
シュテルン‐ゲルラハの実験
しゅてるんげるらはのじっけん
1921年、O・シュテルンとゲルラハが、磁場中で原子の方向量子化(磁気モーメントの成分がとびとびの値をとること)がおこることを実証した歴史的実験。この場合、磁気モーメントの成分は角運動量の成分から決まるので、角運動量の成分がとびとびの値をとることを示した実験といってよい。電気炉内で加熱蒸発した銀原子を真空中に噴出させ、小孔を通して原子線をつくる。その進行方向に垂直にガラス板を置くと、ガラス板上に小孔と同形の銀影が映る。次に小孔とガラス板の間に原子線に垂直(これをz方向とする)に非一様な磁場をかけると、原子線は、z方向の磁場勾配(こうばい)と銀原子の磁気モーメントのz方向の成分に比例する大きさの力を受ける。磁気モーメントは原子の角運動量から決まるので、銀原子のスピン角運動量があらゆる方向に一様に向いているならば、ガラス板上z方向に縦長の銀影が現れるはずである。実際に観測されたのは、z方向に分離した二つの小孔と同形の銀影であった。これは、銀原子の基底状態のスピンが1/2で方向が2方向に量子化される結果、銀原子はz方向とそれに反平行の2方向しかとりえないことを実証するものである。この実験は電子スピンの存在を確認するとともに、電子の磁気モーメントを測定した意義をもっている。原理的には同様の実験によって原子の磁気モーメントの測定ができるが、ガラス板上で観測される像の分離が小さくて実用にはならず、ラービの分子ビーム法や核磁気共鳴法にとってかわられた。
[池上栄胤]