デジタル大辞泉 「磁石」の意味・読み・例文・類語
じ‐しゃく【磁石】
2 地磁気を感じて南北を指す性質を利用した方位測定具。磁気コンパス。磁気羅針盤。
3 天然に産する磁力をもつ鉱石。主に磁鉄鉱。じせき。
[類語]マグネット・電磁石・永久磁石
翻訳|magnet
鉄粉を引き付ける磁力をもつ物体のこと。工業的につくられる強い磁石を永久磁石というが、一般には単に磁石とよぶことが多い。古くから知られた天然磁石は磁鉄鉱を主とする岩石だが、いままでの永久磁石は鉄合金であったから、「磁石」というより中国語の「磁鉄」のほうが呼び名としては適切ではなかったろうか。しかし最近の永久磁石生産ではバリウムフェライト(酸化物)磁石がもっとも多くなり、ふたたび「磁石」とよぶにふさわしい時代となった。
純鉄は磁力が弱く、磁石とはいいがたい物質であるが、外側にコイルを巻いて電流を通すと、電流が流れている間だけ強い磁力を示す。これを永久磁石に対して一時磁石と名づけ、この構造物を電磁石という。さらに中の純鉄を取り去ってコイルだけにしても、電流を通すと一時磁石のように働くので、これも磁石ということがある。超電導コイルを用いた超電導磁石はこの例である。
永久磁石は用途によっていろいろの形につくられ、磁針、棒磁石、円柱磁石、U形(馬蹄(ばてい)形)磁石などとよばれる。磁針が地磁気を感じて南北をさすことはよく知られており、北をさす針先は(指)北極またはN極、反対側は(指)南極またはS極と名づけられた。N極にはNと刻印されるか、赤い色などが塗ってある。この磁気コンパスも単に磁石といわれることが多い。そして広い意味では、磁石になりうるもの、すなわち強磁性物質すべてを俗に磁石とよぶことがある。
[太田恵造]
磁石のそばに置かれた鉄片は磁石に引き付けられる。このように磁力を受ける空間を磁界または磁場(じば)とよぶ。磁石は磁界を生ずるといいかえてもよい。磁界のようすをみるためによく使われるのは鉄粉模様である。磁石の上に白い厚紙をのせ、上から鉄粉を一様に散布すると、磁力線模様が現れる。小さな磁針をのせると、この磁力線に沿った方向をさす。ここでN極のさす向きを磁界の方向と定める。これは磁石のN極から出てS極へ入る向きである。
鉄粉は磁石の両端付近にもっとも強く引き付けられる。磁力が集中しているようにみえるこの場所を、磁極という。磁極にはNとSの2種類しかなく、同名極どうしは反発し、異名極は吸引しあう。2極間の力は距離の2乗に反比例し、磁極の強さに比例するクーロンの法則に従う。磁極の強さと2極間距離との積を磁気モーメントと定義する。磁極は等しい強さのNとSとがかならず1対になっているので、磁極の強さよりも磁気モーメントのほうが本質的な物理量であると考えられている。磁気モーメントはその向きも考えて、SからNへ向かうベクトルで表す。二つの磁気モーメント間の力を計算すると、距離の4乗に反比例している。これは2個の磁石間の吸引力がごく接近しているときは強く、離れれば急速に弱まることの理由である。また異極は引き合って互いに磁極を打ち消し、全体の合成モーメントを小さくするように位置したがる。コイルに電流を通すと一時磁石として働くと述べたが、円形に流れる電流は磁気モーメントを発生し、したがって円電流と磁石とは同じ性質をもつ。この同等性は磁気の本質にかかわる重要な関係である。
[太田恵造]
磁石を分割してみよう。フェライト磁石はすぐ割れるから、この実験に適している。破片はそれぞれが磁石になる。粉末にまでしてもみな小さな磁石になる。実験はここまでだが、分割の行き着く先は原子である。磁気学では個々の原子が磁気モーメントをもつ原子磁石であって、それらがモーメントの方向をそろえて整列していると考えている。このような性質は鉄族原子や希土類金属原子など特別のグループの原子のもつ特性で、これら特別の原子を含む物質だけが強磁性体となることができる。さらにミクロな話では、原子磁石の原因は主として原子中の電子の自転(スピン)に伴う磁気モーメントである。電子の自転は電荷の円運動すなわち円電流であると考えれば、磁気モーメントをもつことが理解されよう。強磁性体内部はこのように初めから磁石となっており、これを自発磁化という。
しかし、それではなぜ純鉄などは普通は磁石にみえないのだろうか。それは内部が自然に細かな領域(磁区)に分かれ、各磁区の磁気モーメントは互いに打ち消し合うように配置するため、全体としては磁気モーメントがないからである。これを消磁状態という。磁界中に入ると、磁界に反対向きの磁区は磁界方向に形や向きを変え、全体としての磁気モーメントが生ずる。これを磁化するという。磁界が強くて全磁区が磁界方向を向き、したがって全体が1個の磁石となった状態が飽和磁化である。鉄片が磁石に吸引される現象は、磁石のつくる磁界によって鉄片が磁化し、二つの磁石が力を及ぼし合っているのだと説明される。磁石から遠く離せば鉄片はふたたび元の状態に戻り、磁気モーメントをほとんど失ってしまう。
[太田恵造]
このように磁化は磁区の形、配置、向きなどが変わることによって進む。それが変わりにくいような構造のものは、一度磁化すると磁界をゼロにしても元に戻らず磁気モーメントが残る。この残留磁化の大きいものが永久磁石である。残留磁化をゼロにするためには逆向きに磁界をかける。この磁界の大きさが保磁力とよばれるもので、これが大きいほど安定な永久磁石である。永久磁石材料にはこのような物質が探し求められてきた。家庭では縫い針を磁石でこすって磁石をつくるが、縫い針は炭素鋼で、純鉄に比べて保磁力が高い。磁区形状が変化しにくい構造として、磁石を微粒子の集まりのようにし各微粒子を一つの磁区にしてしまう方法がある。これで磁区形状は固定されて変化できなくなり、磁化は磁気モーメントの回転だけで進み保磁力は大きくなる。これは粉末磁石の原理といわれ、今日の永久磁石材料はすべて直接または間接的にこの原理によって製造されている。
これとは逆に、一時磁石の磁性体(磁心)は、電流を切って磁界がゼロとなったらただちに磁気モーメントを失ってほしいわけで、保磁力が小さく、磁化しやすい(つまり、透磁率が高い)物質が望ましい。純鉄、パーマロイ合金、マンガン亜鉛フェライトなどがその例である。また、残留磁化をもったものを消磁したいことがある。大きな交番磁界に入れ、磁界を徐々にゼロにする(交流消磁)方法が行われる。磁気カードを電源トランスの上に置いたりすると消磁されて記録内容が失われるのはこのためである。原子磁石が熱振動のために整列できなくなるまで高温にすれば、完全な消磁となる。この温度はキュリー温度という。しかしこの熱消磁は実用的には利用しにくい。
[太田恵造]
きわめて多くの利用法があるので、いくつかの例をあげるにとどめる。
(1)磁石の吸引力を利用する。冷蔵庫のドアにゴム磁石、家具の扉にフェライト磁石をつけ、密閉をよくする。事務室のスチール板には磁石で紙片が留められている。特急列車を磁石の反発力で浮かして走らす磁気浮上式鉄道の計画もある。
(2)磁界発生のための磁石。メーター、発電機、モーター、ピックアップ、スピーカー、電子レンジなど多くの電気機器に組み込まれている。
(3)電磁石。電流の大きさで磁界の強さを変えることを利用して数トンもあるものから、数グラムのブザーやリレー(継電器)までつくられている。
(4)一時磁石の磁心に利用。電源トランスがいちばん目につくが、高周波用各種トランス、フィルター、アンテナ、レコーダーヘッドなど。
(5)磁気記録媒体。残留磁化の変化で情報を記録する磁気テープ、カード、切符、磁気ディスクなどは、情報時代を反映して年々生産が増大し、オーディオ・ビデオ等の磁気テープの国内生産額は1990年にピークに達した(約32億平方メートル)。金額ベースで見ると、1985年に約4941億円でピークを迎えたが、以降、記録メディアの多様化により漸減傾向である。
[太田恵造]
磁石が鉄を引き付けることは古くから知られていた。古代ギリシアでは怪力の神へラクレスの名をつけ、磁石を「ヘラクレスの石」とよんだといわれる。ローマのルクレティウスは『物の本質について』で磁石の反発力に触れている。古代中国では針に方向を与える石としても知られていた。マグネット(磁石)の語源は、天然磁石である磁鉄鉱の産出地として知られたリディアのマグネシア地方に由来するともいわれ、中国では磁石の引力を慈母が子供を引き寄せるのに見立てて「慈石」ともいった。
磁石は実用的に用いられることはほとんどなく、むしろ物を動かす磁石には霊魂があると信じられたり、ニンニクによってその力は失われるとされ、呪術(じゅじゅつ)・秘術的なものとされた。古代中国では占いに用いられ、やがて方位を知る道具として使われ始めた。紐(ひも)でつるした磁石や、腹に磁石を入れた木製の指南魚などが記録にある。これが11世紀ごろアラビア人によってヨーロッパに伝わり羅針盤(らしんばん)(コンパス)となる。
磁石に関する最初の実験的研究はペトルス・ペレグリヌスが行った。1269年、彼は、二つの磁極の存在、両極間の引力と斥力(せきりょく)の関係、磁石の作り方などを述べた書を著した。
中世における商業の発達と交易の拡大とともに、航海もそれまでの沿岸航海から遠洋航海へと拡大し、新たな航海法、天文航法が必要となった。羅針盤も重要な役割を果たすが、水面に磁針を浮かべた程度の初期のものは補助的なものであった。やがて改良、普及されるとともに、地磁気の偏角と伏角の発見を導き、磁石に関する実験的研究を促した。
1600年ギルバートは『磁石について』を著した。彼は地球を球形磁石と考え、球状磁石をつくって実験を行った。また摩擦電気の引力と磁石のそれを区別し、磁石を近代科学の対象へと変えた。ガリレイはギルバートの「鎧装(がいそう)磁石」の作用を研究し、金属の鎧(よろい)をかぶせた数倍も磁力の強い磁石をつくった。
18世紀後半、クーロンは磁針の懸下装置に関する研究を行い、一方、ガウスやW・E・ウェーバーによって国際地磁気観測網が組織され、ウェーバーが『地磁気図』(1840)を編んだ。19世紀に入り、エルステッドやアンペールらが磁気と電流の関連を研究、やがてスタージョンらが電磁石を発明、またファラデーは常磁性体と反磁性体の存在を明らかにした。しかし磁石そのものの本質的解明は20世紀に入ってからのこととなる。
[高橋智子]
『浅沼満著『NとSの世界』(1977・東海大学出版会)』▽『板倉聖宣著『磁石の魅力』(1980・仮説社)』
狂言の曲名。雑狂言。京へ向かう途中、すっぱ(詐欺師(さぎし)。シテ)にだまされて人買いの宿屋へ連れ込まれた田舎(いなか)の男は、宿の亭主とすっぱの話を立ち聞きして事情を察し、翌未明、自分の身代金を横取りして逃げ出す。追いかけてきたすっぱが太刀(たち)を抜いて斬(き)りつけようとすると、男はとっさに磁石の精になりすまし、その太刀を呑(の)もうと大口を開けてすっぱをたじろがせる。太刀を鞘(さや)に収めると、今度は倒れて死んだふりをする。あわてたすっぱが太刀を供え蘇生(そせい)を祈ると、男は起き上がって太刀をとり、すっぱを追い込んでいく。このように、すっぱを手玉にとってしまう田舎者は、狂言では珍しい。
[池田英悟]
磁極をもつ物体のこと。広くはこれと同様な磁場を作り出す装置も含める。前者には,天然のもの(磁鉄鉱など),人工的にフェライトなどに磁化を与えてつくったものがある。磁石のもつ性質としては,おおまかには,鉄に対する牽引性,磁石どうしの間の相互的牽引性と反発性(極性),北を指す性質(指極性)などをあげることができる。古代社会でも磁石の存在は広く人々の注意をひいていたことは確かで(中国に関しては後述),ギリシアでも,さまざまな呼名があったらしい。例えば怪力無双の英雄ヘラクレスの名をとったと思われる〈ヘラクレスの石Heracleus〉とか,〈鉄の石lithos sideritis〉などの呼名があったといわれる。英語のmagnetの語源もギリシア人たちの呼名の一つマグネスmagnēsに由来すると思われるが,それに近い名まえの人が発見したという説と,天然磁石の産地の一つであるマグネシアMagnēsiaという地名(ギリシア本土と小アジアに同名2ヵ所がある)に帰する説とあって,今となっては定かではない。エジプトでは,太陽の神ホルスの力にちなんで,〈ホルスの骨〉と呼んでいたらしい。その後magnēsがもっとも普遍的な呼名として普及する。
磁石についての言及は,プラトンの《イオン》,アリストテレスの《霊魂論》などにあり,さらに,真空を認めたデモクリトスからルクレティウスへの古代原子論の系譜の中でも,力の作用が真空中でも伝えられる(つまり今日のことばでの遠隔作用)場合の例として注目されている。医学的な治癒力があるという見解はガレノスにあり,またローマ時代の建築家の中には,円天井を磁石でつくって,鉄像を,空中に浮かせることを試みたものがあると伝えられている。ルクレティウスが《事物の本性について》の中で行っている解説は,独特のものである。彼はものが見えるのは,そのものから微細な原子が間断なく流れ出て,視覚を刺激するからであるといい,そのアナロジーで,しかしきわめて機械的な説明を加える。つまり磁石から出た原子が空気をはね飛ばし,そこに空隙(くうげき)をつくる。そこへ鉄の原子が入り込むことによって,鉄の塊は結局磁石のほうに動いていくという。この説明では,なぜ鉄だけが牽引されるのかは明らかにならないが,ルクレティウスは金のように重すぎて動けないもの,また木のように素成が粗すぎて,磁石の原子の流れが有効に機能しないものがあると考えている。
その後もイスラム世界,西方ラテン世界での磁石に対する関心は続き,とくに12世紀に中国から指南魚がイスラム経由で伝えられ,指極性に注目が集まった。いうまでもなくそれが大航海時代のヨーロッパに結び付くことになる。ただ,〈サガ〉に現れるように10世紀に北アメリカに渡っていたノルウェー系の人々は,指北磁針を使っていたと考えられており,ヨーロッパでの最初の羅針盤の問題は,やや微妙である。こうした状況の中から,電気的な現象と並んで多くの知見が積み重ねられた。例えばルネサンス期,新プラトン主義普及に最大の力のあったM.フィチーノには,コハクを摩擦して得られるような力と,磁力とが,指北力という点で異なることを指摘した言及がある。この点はG.カルダーノによってより明確化された。こうした伝統のうえに立って,磁石に関して重要な貢献をしたのがW.ギルバートである。ギルバートの《磁石論》は,一方に,きわめて多様な実験を行うと同時に,もう一方で,ルネサンス期特有の新プラトン主義流のアニミズムや神秘主義を強く意識した著作である。ギルバートは,磁気と電気とは異なることを明白に述べている。電気力(摩擦による)は,コハクの摩擦によって生じた〈発散気effluvia〉が放出され,それを通じて近接作用的に牽引力が伝わる。ところが磁力は,一種の遠隔作用であって,それは,物体に内在するアニマどうしの合体という形で理解すべきものということになる。そこから,ギルバートの主張として著名な,地球も一つの磁石であるという論点も得られる。アリストテレスのように,地球を不完全な世界と考えず,地球もまたアニマをもつ一つの天体として理解するコペルニクス説と同根の新プラトン主義の根本原理が,ここに見られる。このようにギルバートの磁石論は,一般に喧伝されているほど近代的でも科学的でもない。その点ではコペルニクス説に似ている。しかしながら,ほとんど同時代のデカルトの磁石論も,あるいはまたその後の磁石論も同工異曲といえる。デカルトは,磁気エフルウィア説をとったし,この磁気流体仮説(ルクレティウスの議論に近い)は18世紀まで一般的であった。さらに磁気のもつ神秘性は,F.A.メスマーのような磁気治療法(動物磁気説)などにもつながっている。結局,19世紀電磁気学の成立まで,磁石についての明確な説明は与えられなかったといってよい。
執筆者:村上 陽一郎
中国では前3世紀後半の秦始皇帝の時代に宰相呂不韋(りよふい)が編集した《呂氏春秋》季秋紀精通篇に〈慈石は鉄を呼び引きよせる〉とみえる。慈は磁と音が同じで,鉄を子とするのに対し,磁石を慈母にたとえている。その後にも前2世紀末の《淮南子(えなんじ)》や1世紀末の《論衡(ろんこう)》などに記載がある。ことに後漢の王充が著した《論衡》には,磁石の指極性を知りそれを利用した器具である〈司南之杓〉のことにふれている。磁石の指極性は世界にさきがけて中国人が初めて発見した。その後に磁針をつくるようになり,これを木製の魚の腹に入れて水に浮かべ,方位を知る指南魚が考案された。最初はもっぱら地相や家相をみる占師の間で使用されたが,1100年ころには船に備えられ,後世の羅針盤の先駆となった。これが中国貿易に従事したアラビア人によってヨーロッパに伝えられた。
執筆者:藪内 清
磁極をもつ物体,またそれが周囲につくるのと同様な磁場をつくり出す装置が磁石である。強磁性体(フェリ磁性体を含む)を用い磁化を保つようにしたものを永久磁石,導線でコイルをつくり,電流を流して磁場をつくり出すものを電磁石と呼ぶ。電磁石にはコイルの中に,強磁性体の心(磁心という)をもつものともたないものとがあり,磁心をもたないものを空心コイルとして電磁石と区別する場合もある。非常に強い磁場をつくる場合には空心コイルに大電流を流すが,これには超伝導体を導線に用いる超伝導磁石が非常に有用である。永久磁石の形としては棒状のもの,馬蹄形のもの,あるいは円板状のものなどがあるが,いずれもS極およびN極の2種類の磁極をもち,同種の磁極間には斥力,異種の磁極間には引力が働く。針状の磁石を磁針といい,磁針の重心を支えて自由に動けるようにすると,地球上で一定の方向を向く。地球自身が一つの磁石で,北極に近いところにS極,南極に近いところにN極があるためである。磁気を電気に対応させると,磁極は電荷に対応するものであり,N極,S極はそれぞれ正,負の電荷に対応するが,電気の場合と異なって,単独の磁極の存在は現在までのところ見つかっておらず,つねにS,Nの対で現れる。例えば一つの棒磁石を二つの棒磁石に分けても,新しくつくられた断面には,それぞれの磁石がSとNの極を対でもつように磁極が現れる。このとき断面に現れる磁極はもとの磁極と同じ強さをもつ。永久磁石は磁極をもつので,磁石内部にその磁極による磁場,すなわち反磁場をつくる。この反磁場は磁化を減少させる方向に働く。空心コイルの場合には磁極はないから反磁場は存在しない。反磁場に抗して磁化を保つために,永久磁石には保磁力の大きい材料が望ましく,一方,交流で用いる電磁石の磁心には保磁力が小さいものが望ましい。
永久磁石の代表的なものとしてアルニコ系鋳造磁石およびバリウム系フェライト磁石がある。前者の材料は磁石鋼に属し,後者は酸化物磁石である。これらの永久磁石材料は単磁区微粒子の集合体として説明される。単磁区の微粒子の磁化は磁気異方性エネルギーの低い方向(容易軸方向)の正負どちらかに,全体として大きい磁化をもつように分布している。この微粒子の磁化を逆転するためには異方性エネルギーの高いところ,いわば峠を越えねばならず,これが保磁力を定めることになる。アルニコ系鋳造磁石の場合にはこの異方性は形状磁気異方性に,バリウム系フェライト磁石では結晶磁気異方性に由来し,ともに大きい保磁力をもつ。
→磁気 →磁区 →磁性
執筆者:吉森 昭夫
狂言の曲名。雑狂言,すっぱ物。大蔵,和泉両流にある。遠江(とおとうみ)国の見付(みつけ)から上京するいなか者が,大津松本の市を見物していると,人売りを稼業とするすっぱがことば巧みに近づき,いなか者を定宿へつれ込む。宿の亭主は実は人買いで,すっぱからいなか者を買う契約を交わす。この相談を盗み聞きしたいなか者は,先回りして金を受け取り逃げ去る。あとを追ったすっぱが,太刀を抜いて振り上げると,いなか者はとっさの機転で,自分は磁石の精だと名のり,太刀をひと口に呑んでしまうとおどかす。すっぱが太刀を鞘に納めると倒れて死んだふりをする。驚いたすっぱが太刀を枕もとに供えて蘇生を祈っていると,いなか者は急に起き上がり,太刀を取ってすっぱを追い込む。登場人物はすっぱ,いなか者,亭主の3人で,すっぱがシテ。磁石という題材に,人身売買,市立ちの風俗,蘇生の呪術など,中世の時代相を感じさせる狂言。
執筆者:羽田 昶
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字通「磁」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
磁石は常識的には鉄粉を引きつけるぐらいの強さの磁気をもつ物質である.強磁性体やフェリ磁性体では,残留磁化があるので磁石になるが,保磁力の小さいものは,容易に磁化が失われるので一時磁石といわれる.残留磁化と保磁力の大きい磁石は永久磁石として役立つ.一時磁石にコイルを巻いたものは電磁石である.最近は電磁石に超伝導体を用いた超伝導磁石も用いられる.[別用語参照]希土類磁石
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…このような海運の発展の蔭には,輸送技術の発達が存在した。鎌倉時代までは,船の大きさも前代とあまり変りなかったが,室町時代になると船も大型化して,千石船もかなり一般化し,準構造船より構造船へと移行しつつあり,磁石の使用も知られるようになった。これらを背景に船の賃貸その他海上運行を取りきめる海法が自然発生的に生まれたが,室町末成立のいわゆる《廻船式目》は当時のヨーロッパの海法をしのぐ高度の内容をもつものとされる。…
…前者には,天然のもの(磁鉄鉱など),人工的にフェライトなどに磁化を与えてつくったものがある。磁石のもつ性質としては,おおまかには,鉄に対する牽引性,磁石どうしの間の相互的牽引性と反発性(極性),北を指す性質(指極性)などをあげることができる。古代社会でも磁石の存在は広く人々の注意をひいていたことは確かで(中国に関しては後述),ギリシアでも,さまざまな呼名があったらしい。…
※「磁石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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