日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲーデル」の意味・わかりやすい解説
ゲーデル
げーでる
Kurt Gödel
(1906―1978)
アメリカの数学者。オーストリア・ハンガリー帝国のブルン(現、チェコのブルノ)に生まれ、ウィーン大学で数学と物理を学び、1930年に学位を取得。1940年からアメリカのプリンストン高等研究所で研究に従事、1948年アメリカ市民権を得た。1953年同研究所教授となり、1951年エール大学、1952年ハーバード大学の名誉教授。アメリカ科学アカデミー会員。
ゲーデルのおもな研究は、記号論理学、数理哲学、および集合論の根本に深く関連しており、彼の業績を抜きに、今日、数学基礎論のいかなる分野も論じられない。1930年、記号論理学に採用されている論理の法則が、数学に用いられている論理的な推論方法を実質的には余すところなく含んでいる、ということを証明した(ゲーデルの完全性定理)。つまり、記号論理学は数学の論理を完全に表現しているもので、これに付け加えるべき新しい論理法則はなにもないのである。ついで1931年には、記号論理学の方式によって数学の理論を記述する方法にはある種の限界があることを証明した(ゲーデルの不完全性定理)。それによれば、記号論理学の方式によって通常の数学的理論を記述した場合、ある命題Aとその否定not Aのいずれもが証明できないような命題Aがかならず存在する、というのである。しかも、この不完全性定理の証明から、ある数学的理論が矛盾を含まなければ、その理論が矛盾を含まないということをその理論のなかで証明することはできない、ということまでも示した。そのほかツェルメロの選択公理やカントルの連続体仮説、それを一般化した一般連続体仮説をすべて正しいと仮定しても、集合論に新たな矛盾が生ずることはない、というゲーデルの証明(1938)は有名である。
[前原昭二]