翻訳|logicism
直観主義、形式主義とともに、数学の1分野である数学基礎論の基礎づけを行う一つの立場。集合論における二律背反、すなわち矛盾の発見を契機として、19世紀末から20世紀初頭にかけて、数学の基礎に関する組織的研究が盛んになってきた。しかしながら、こういった研究がともかく可能となったのは、フレーゲらによってその当時までにいちおう完成の域に達していた記号論理学という背景があった。実際、フレーゲとその後継者であるB・ラッセルによって、古典数学、つまり通常の数学があますところなく記号論理学で表されるということが、いわば実験的に示された(『数学原理』Principia Mathematica全3巻)。
フレーゲもラッセルもこれにとどまらず、算術の公理といった数学の公理まで論理学に還元できるということを証明した。たとえば、二という自然数は対(つい)の集合として定義される。このような論理学は一種の集合論にほかならないから、フレーゲやラッセルによる数学の論理学への還元は、集合論への還元ということになろう。そして、こういった立場からの数学の基礎づけがいわゆる論理主義なのである。
論理主義に対しては、その後、構成を重んじる直観主義、論理学や数学を意味のない記号の操作と考える形式主義が出現し、現在では、論理主義をそのままの形で認める専門家は少ない。しかし、論理主義が数学の基礎づけに果たした役割を忘れることはできない。
[石本 新]
数学を論理学の一部とみる立場で,主としてB.A.W.ラッセルによって唱えられた。彼はA.N.ホワイトヘッドとの共著《プリンキピア・マテマティカ》において,今日いわゆる分岐した型(タイプ)の理論と呼ばれる記号論理の体系を展開し,その中で自然数,実数などの数学的概念を論理学の概念としてとらえ,数学の定理を論理学の定理として,論理学の基本法則から導こうとした。彼は,与えられた対象全体という概念を用いて定義された対象は従前に与えられた対象よりも型が高いとし,種々の逆理はこのような型を無視することによって生ずるものと考えた。しかし,その見地に従って数学の構成を進めるうちに,型の解消にかかわる〈還元公理〉という不満足な公理をおかざるをえなかった。数学の基礎づけという点では不成功であったが,ラッセルの業績は,その後の記号論理学,さらには論理主義に対立した形式主義の立場からのD.ヒルベルトの仕事にも大きな影響を与えている。
執筆者:柘植 利之
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…この点で三つの学派がある。まず注目すべきは,フレーゲから始まりB.A.W.ラッセルに至って大成された論理主義である。この派の主張は数学を論理学に還元するというものにほかならない。…
…その関心は早くから数学の基礎に向けられ,当時の数学者,哲学者と盛んに交流したが,その見解は広く受け入れられなかった。しかし,算術を論理から導くといういわゆる論理主義の立場をとり,それを正当化しようという思索の成果は,20世紀の哲学に大きく貢献している。論理主義実現のために論理学自体の再検討が必要となり,その結果,現代の命題計算,一階述語計算のほぼ完全な体系を独立で構成し,アリストテレス以来の伝統論理をはじめて実質的に超える論理学を《概念記法》(1879)として提出した。…
※「論理主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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