労働協約上,従業員資格と組合員資格とを関連づけることによって,組合員のために雇用を確保するとともに組合の組織強化をはかる制度。ショップshopとは,こうした制度の適用をうける職場ないし事業場のことをいう。労働組合は,本来任意団体であるが,その地位を強化し,その影響力を職場全体に及ぼすために種々の形態で組合員の増加をめざす必要がある。ショップ制は,そのなかでも使用者の人事権,とりわけ解雇権を背景に被用者の組合加入を強制するものであり,端的な組織強制手段とされる。アメリカでは,ショップ条項(ユニオン・ショップ条項)は,チェック・オフや排他的交渉代表制度とともに組合保障union securityの目的をもつといわれる。労働法は,このような協定の効力を原則として認めている。しかし,ショップ制の形態や運営の仕方によっては,使用者の人事権や被用者の労働権,団結権を不当に侵害する可能性もあるので,この点をめぐり多様な法的紛争が発生している。
ショップ制は,組合の規制力が弱い順に,オープン・ショップopen s.制,ユニオン・ショップunion s.制,クローズド・ショップclosed s.制があり,日本ではユニオン・ショップ制が一般化している。これらのほかに,組合加入は義務づけられないが〈ただ乗りfree rider〉防止のために組合費相当額の支払が義務づけられるエージェンシー・ショップagency s.制や,組合の示す順位に従って組合員を優先的に採用するプレファレンシャル・ショップpreferential s.制等もある。いずれも日本ではほとんどその例をみない。
企業の従業員資格と組合員資格がまったく関連がない制度もしくは状態をいう。使用者は,組合員資格の有無を問わず労働者を採用することができ,労働者は採用後も組合加入を義務づけられない。オープンとは,〈職がすべての労働者に開かれた〉の意味である。他のショップ制とは異なり,協約上明文でオープン・ショップ制を定める例は少なく,むしろ特別の定めがなければオープン・ショップ制とみなされる。もっとも,公務員についてはオープン・ショップ制を採用することが義務づけられている(国家公務員法108条の2-3項,地方公務員法52条3項,国営企業労働関係法4条1項,地方公営企業労働関係法5条1項)。
採用時に組合員たることを要しないが,採用後相当期間内に組合に加入することが義務づけられる制度をいう。組合未加入者や組合から除名もしくは脱退した者は,使用者から解雇される。日本では,このユニオン・ショップ協定は広範に普及しており,組合総数の50%が当該協定を有しているといわれる(労働省労政局編《最新・労働協約の実態》1979,以下の数字も同様)。これは,協約有の組合の62%,包括協約有の組合の87%にあたり,とくに企業規模が大きいほどその締結率は高い。日本のユニオン・ショップ協定の特徴は,逆しめつけ条項と一体にして規定されたり,また,しりぬけユニオンの例が多いことといわれる。逆しめつけ条項とは,組合員資格を特定企業の被用者のみに限定するものであり,企業外の者の組合加入を防ぐ目的をもつ。しりぬけユニオンとは,組合未加入者,脱退者もしくは被除名者を解雇するか否かを使用者の裁量にゆだねているものであり,〈原則として解雇する〉あるいは〈取扱いについて労使協議する〉等の定め方をしている。これに対し,完全に解雇義務を負うものを完全ユニオンという。
ユニオン・ショップ協定をめぐっては,数多くの法的紛争が発生している。第1に,協定上,使用者の解雇義務は,組合に対する義務との性格を有するが,その実際の効果は個々の被用者(非組合員)との関係で発生するという,複雑な構成になっているので,同協定の法的性質について激しい論争が展開された。具体的には,協定に基づく解雇は有効かが争われた。判例(日本食塩製造事件,1975年4月25日最高裁第2小法廷判決)・学説とも,ユニオン・ショップ制は間接的に労働組合組織の拡大強化という正当な目的を有するとして,その効力を認めている。もっとも最近では,ユニオン・ショップ制がその目的に反して濫用的に(すなわち,労使一体となって組合の少数派を企業外に排除する手段として)利用されることが少なくない実態を重視して,むしろ原則としてその効力を否認すべし,との見解も有力である。また,消極的団結権(団結しない自由)を強調し,ユニオン・ショップ協定を無効とみなす立場もある。第2に,組合の除名措置に基づき使用者が被除名者を解雇した場合において,その後当該除名が無効と判断されたら解雇も無効となるか,が争われた。使用者は,除名の有効・無効を知りえない場合が多いので(調査の仕方によっては組合運営に対する不当介入とされる),除名無効のときに解雇も無効とするのは使用者にとって酷であるとの主張もなされた。しかし,判例(前述日本食塩製造事件)・学説とも,ユニオン・ショップ協定に基づき,使用者が解雇義務を負うのは,有効な除名がなされた場合に限定されるとし,当該解雇を解雇権の濫用とし無効とみなしている。第3に,複数組合併存下において,ユニオン・ショップ協定締結組合(労働組合法7条1号但書は,工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する組合とユニオン・ショップ協定を締結することは不当労働行為とみなされないと定めている)以外の少数組合を結成もしくはそれに加入したことを理由とする解雇の効力が争われている。判例・学説とも,ユニオン・ショップ協定存立の統一的基盤が失われたとか,少数組合の団結権を保障するためとの理由をあげて解雇を無効としている。もっとも,いずれの組合にも加入しない場合には原則として解雇される。
使用者が労働者を採用するにつき,組合員資格を有する者のみを採用し,採用後も,脱退や除名により組合員資格を失った者に対しては解雇する制度をいう。ユニオン・ショップ制を含んでクローズド・ショップ制ということもある(イギリス)。組合が労働供給を独占することによって,職の確保と労働条件の維持改善を目的とする。アメリカでは,使用者が有する採用の自由や非組合員の労働権を不当に制約するとして,当該協定を違法とみなしている。クローズド・ショップ協定は,長期の徒弟期間を経て高度の熟練を有し,かつほとんど代替性のない労働者が結成する組合のみが締結しえた。しかし,産業構造の変化等でこれらの熟練工が減少するにともない,クローズド・ショップ制もその例をみなくなった。企業別組合が圧倒的に多い日本では,クローズド・ショップ制は存立基盤を欠いている。
→労働組合
執筆者:道幸 哲也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
労働組合と使用者またはその団体との間で、組合員であることと従業員であることとの関係、または従業員として採用する対象者の要件と組合員であることとの関係について取り決めた制度。三つの形態がある。第一のクローズド・ショップclosed shopは、使用者に特定労働組合の組合員のみを従業員として採用することを義務づけるもので、たとえば「従業員の採用は組合員のなかから行う。また、従業員としてとどまるためには、組合員でなければならない」というような協定が締結される。第二のユニオン・ショップunion shopは、たとえば「従業員は組合員でなければならない。会社は、組合を脱退した者または除名された者を解雇しなければならない」というような協定により、労働者には従業員として採用されてのち一定期間内に労働組合に加入することを要求し、他方使用者には組合員資格を失った者を解雇することを義務づけるものである。第三のオープン・ショップopen shopは、従業員が組合員であるか否かを問わない制度である。歴史的には熟練労働者の企業横断的組織である職能別労働組合によるクローズド・ショップに始まると考えられる。しかし、日本では労働組合が企業別組織であることから、企業ごとに締結されるユニオン・ショップが圧倒的多数である。しかも解雇規定を欠く「宣言的ユニオン」であったり、「ただし解雇にあたっては会社、組合が協議する」という但書のある「しり抜けユニオン」であることが多い。
[木下秀雄・吉田美喜夫]
クローズド・ショップ、ユニオン・ショップは、第一に、労働者に組合加入を強制し脱退を制約する機能をもち、このことは第二に、組合の団結の維持・強化につながると考えられている。また第三に、労働組合による職業・雇用の統制・確保に役だち、個々の労働者が労働力を安売りして労働条件を自ら引き下げるのを防ぐ。さらに第四に、使用者による組合承認という一般的な組合保障の意義ももつと考えられる。日本の場合、組合幹部が「除名すなわち解雇」というユニオン・ショップ制度の効果を背景にして組合内の批判を押さえ込む例があり、労働組合による労働市場のコントロールという本来の機能よりも、組合内の統制機能を営むに至っている。しかも、しり抜けユニオンのため使用者の判断が入り込む余地が広く、ユニオン・ショップに基づく解雇が不当労働行為の隠れ蓑(みの)になっている面もある。
[木下秀雄・吉田美喜夫]
以上のような日本におけるユニオン・ショップ制度のもつ弊害を理由に、また労働者の労働権や自己決定権を重視する立場から、ユニオン・ショップ協定の無効を主張する説が有力になっている。しかし、現在のところ憲法第28条の団結権保障規定を根拠にユニオン・ショップ協定を有効とする説が通説である。ただし、一企業内に複数の組合が並存している場合、それらのうち一つの組合が使用者とユニオン・ショップ協定を締結したとしても、当該組合以外の組合の構成員が解雇されるわけではないとの解釈が支配的である。つまり、ユニオン・ショップ協定が有効であるとしても、その効力は並存している別組合の組合員には及ばないと考えられている。
次に、ユニオン・ショップ協定と使用者による労働者の解雇との関係であるが、労働組合がある組合員を除名したとする。その場合、使用者は当該被除名者を解雇する義務を労働組合に対して負うにとどまり(債務的効力)、除名により当然解雇という効果が生ずるわけではないと考えられている。ただ、判例は、除名が無効であると判断された場合には解雇も無効となるという考えをとっている。なお、労働組合法第7条1号の但書は、工場事業場の過半数の労働者を代表する労働組合が、ユニオン・ショップ協定を締結したとしても不当労働行為にはあたらないと定めている。これは、同条1号本文が、労働者が組合員であるか否かを雇用条件とすることを不当労働行為として禁止しているためである。つまり、ユニオン・ショップ協定は組合員でない労働者の解雇(雇用しないことを意味する)を義務づけるので、この禁止に該当することになるが、それを過半数組合が締結すれば不当労働行為にならないとしているのである。同協定を有効とみる場合の法的な根拠は、あくまで憲法第28条に求められるのであって、この但書が根拠になるわけではない。
[木下秀雄・吉田美喜夫]
『本多淳亮著『ユニオン・ショップの研究』(1964・有斐閣)』▽『林和彦著「ショップ条項」(『現代労働法講座6』所収・1981・総合労働研究所)』▽『西谷敏著『労働法における個人と集団』(1992・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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