熟練労働者(読み)じゅくれんろうどうしゃ(その他表記)skilled worker

翻訳|skilled worker

改訂新版 世界大百科事典 「熟練労働者」の意味・わかりやすい解説

熟練労働者 (じゅくれんろうどうしゃ)
skilled worker

工業の生産過程における技能に習熟した労働者をいう。産業技術および経済構造の変化に対応して,歴史的にも国際的にも多様な存在様式をもっている。

産業革命以前には,自営業者である職人ギルドを形成して技能を独占し,親方-職人-徒弟の身分序列を守るとともに,親方の人数を制限し,親方以外には営業を認めない規制を確立していた。産業革命によって自営業者としての職人の基盤は崩れ,資本家に雇用される賃金労働者が主流となったが,新たに形成された機械制大工業の中で要求される技能に習熟した熟練労働者と,その補助者あるいは熟練を要しない単純作業に従事する不熟練労働者unskilled workerの階層区分が生じた。19世紀末ごろまでは多品種少量生産が一般的であったため,熟練労働者には多能工的な技能が要求されており,熟練形成は主として労働者から労働者への経験による技能伝達によっていたので,多くの国で徒弟制度再編・維持された。すなわち熟練労働者になるためには,各職業ごとに定められた条件で徒弟として契約し,一定年限をほとんど無報酬で見習いとして過ごすことによって,はじめて熟練労働者としての資格を認められた。資格を認められた労働者は,経験年数の長短にかかわらず同じ賃金を保障され,労働時間などの労働条件も共通であった。彼らは職能別組合という形態で労働組合をつくり,相互扶助を目的とする共済活動と,その職業の労働条件を高めるための活動を展開した。

 19世紀末からの資本集中と大規模生産様式の発展によって,多能工的熟練が,生産過程の一部分だけに習熟すれば足りる単能工的熟練に変化した。このような熟練をもつ労働者を半熟練労働者semiskilled workerと呼ぶ。その養成が同一企業内での昇進制度と結びつけられた結果として,社会的階層としての熟練労働者という存在は,基幹的な労働者としては成立しなくなったといえる。しかし欧米では,資格制度や慣行を維持する努力が行われたため,現在でも各産業ごとに熟練・不熟練の区分が残されている。

日本では近代工業が外来産業として導入されたため,これに対応する労働者を労働市場に見いだすことができず,その育成・確保は困難な問題となった。まず欧米から技術者を〈御雇外国人〉として招き,日本の在来産業の中で比較的に類似している技能をもつ職人を選んでこれに教育・訓練を行わせた。このようにして養成された熟練労働者が親方となり,多数の労働者を弟子あるいは子方として訓練し,組請負の形式で企業に雇用されていた。日本資本主義の発展とともに企業内養成が盛んになったが,熟練した労働者は一般に特定企業に定着せず,〈渡り職工〉として流動した。しかし明治末期から積極的な定着策がとられ,系統的な訓練をほどこした〈子飼い〉の労働者がしだいに蓄積されて,第1次大戦後にはこれを基幹労働者とする労務政策が明確となった。昭和初期からは定期採用・長期雇用を建前とする終身雇用制がとられ,技能の年功序列が確立した。第2次大戦後の急速な技術革新のため年長者の熟練労働者としての地位は揺らいだが,職長訓練や技能再訓練制の導入によって,これを補強する努力も払われている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熟練労働者」の意味・わかりやすい解説

熟練労働者
じゅくれんろうどうしゃ
skilled labor

歴史的にはギルドやマニュファクチュアの段階での,作業に経験的に習熟した労働者のこと。産業革命以後,近代的工場制工業の一般化により,経験的技能とは異なった専門的知識や科学的判断力をもった新たな質の熟練が要請されるにいたった。欧米ではこれら熟練労働者の賃金は高く,未熟練労働者に対して排他的な職業別組合を形成している。日本では広範囲な作業に適応し,かつ指導しうる労働者を多能工と呼ぶことがある。

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世界大百科事典(旧版)内の熟練労働者の言及

【経営・経営管理】より


[内部請負制]
 まず工場レベルに焦点をおくと,広義の機械工業では産業革命以降かなり長期にわたって内部請負制subcontract systemが採用されていた。それは,かつて熟練労働者であった者のなかで,それなりに能力があって内部請負人となった者が資本家との間で契約を結び,一定種類の作業を一定量,一定期間,一定価格で請け負って完成させるものである。彼は必要な労働者を自分の判断で雇用し,作業上の監督やときに技能訓練を行い,仕事を査定して賃金を支払う。…

※「熟練労働者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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