団結権(読み)ダンケツケン

デジタル大辞泉 「団結権」の意味・読み・例文・類語

だんけつ‐けん【団結権】

労働者が、労働条件維持改善について使用者と対等な立場で交渉するために、労働組合結成する権利憲法保障する労働基本権の一。

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精選版 日本国語大辞典 「団結権」の意味・読み・例文・類語

だんけつ‐けん【団結権】

  1. 〘 名詞 〙 労働者が地位の向上を図り、労働条件の改善について使用者と対等の立場で団体交渉を行なうため、労働組合を結成する権利。またはこれに加入する権利。憲法二八条により保障される。〔増補改版や、此は便利だ(1922)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「団結権」の意味・わかりやすい解説

団結権 (だんけつけん)

労働者が賃金,労働時間その他の労働条件を維持・改善するために団結する権利。生計をもっぱら賃金に依存している労働者に対して良好な労働条件,良好な労働環境を確保し,経済的のみならず文化的な意味においても豊かな人間的生活を実現することは,今日の多くの資本主義社会にとって自明の目標であるが,これを達成するための基本的な方策の一つは,労働者が使用者との労働契約労働条件交渉の場において,集団として行動できるよう,制度化することである。すなわち,労働者に特別の団体的な権利を設定することによって,結束して労働組合をつくり,労働組合として対使用者交渉にあたり,その際に必要とあれば,使用者に対して集団的な圧力を加える,などの団体的な行動を許容しあるいはこれをより積極的に鼓舞することである。この方策は,生活の必要のためにはいかなる労働条件のもとでも働かざるをえない労働者個々人と使用者との間には〈契約自由の原則〉が本来予定する自由対等の関係は存在せず,そのため実際には労働者に〈契約の不自由〉しかもたらしえないという認識を基礎にしている。しかし,その趣旨は,(1)契約自由の原則をより実質的な意味においてとらえ,これを貫こうとするものであること,(2)労働者をもっぱら保護の客体としてとらえざるをえない労働者保護法などとは異なり,労働者の主体性自主性の尊重をその中核とする措置であること,(3)歴史的には労働者が永らく求めてやまなかったものの承認にほかならないこと,などの点で独特の重大な意義を有している。

 団結権は,かかる方策が採用されるとき,論理的にも実際にもまず最初に認められることになる。その意味で,団結権は,基底的・根源的な団体的権利であり,具体的には,労働組合を結成しあるいはこれに加入する権利をその主要な内容とする権利である。この団結権は使用者に対する関係では原則として,受動的にその妨害に対抗しうるという意義をもつにとどまり,それ以上に能動的に働きかけていくことを内容とするものではない。そのため,団結権に支えられた労働者集団,労働組合が使用者からなんらかの現実的な成果を獲得することを可能にするためには,団体交渉権争議権をこれとあわせて保障することが不可欠である(これら3権をあわせて,労働三権と称する)。この点からすると,団体交渉権,争議権を団結権の対外機能的・現象的存在形式ととらえることも許されることになる。このように団結権は,広義には,まさに労働三権を意味する。

 日本において団結権を保障するのは,〈勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する〉という,憲法28条である。すべての労働者に対して,労働三権のすべてが無条件に基本的人権,労働基本権として保障されていることが,ここに明瞭に認められるのである。世界の諸立法と比較しても,最も鷹揚に労働三権を保障する例といえる憲法28条は,たとえば,重大な違憲の疑いなしにはいかなる種類の公務員についても争議行為禁止立法を導入しえないという意味においては,むしろ無雑作,素朴にすぎるともいいうる。しかし同条は一方で,永らく労働組合運動を抑圧の対象としてしかとらええなかった戦前の歴史に対する深刻な反省のうえにたつものであり,他方では,すべての国民に対して人間的生存の権利を保障する憲法25条の,労働者についての具体化の手段として憲法体系上位置づけられていることを忘れてはならないのである。今日の諸立法がどの程度まで憲法28条に忠実に成り立っているのかを考えてみると,とりわけ公共部門の労働者による争議行為の禁止規定(国家公務員法98条2項,地方公務員法37条1項,国営企業労働関係法17条,地方公営企業労働関係法11条)の合憲性について重大な疑義が生じるのであるが,団結権そのものの剝奪については,わずかに警察,海上保安庁,監獄,消防の各職員,自衛隊員についてその例をみるだけであり(国家公務員法108条の2-5項,地方公務員法52条5項,自衛隊法64条1項。もとよりこれらの規定については,違憲の疑いがある),概して法律は憲法の団結権保障の趣旨にそっているといえよう。とりわけ憲法の保障を具体化する一般法としての労働組合法は,使用者による,団結権に対する各種の侵害・干渉行為を,もともと裁判によっては救済の余地のない範囲のものまでを含めて不当労働行為として非難し,被害者たる労働者ないし労働組合に対しては労働委員会が行政的な救済を与えるようにしており(労働組合法7条,27条),憲法の保障に一歩を進めるものと評される。

 団結権の実体内容に関連した基本的な法律問題として,はたして憲法28条はユニオン・ショップ協定(ショップ制)の有効性を根拠づけるか,さらに労働組合が組合員に対して有する統制権の法的根拠になりうるか,ということがある。いずれの問題についても原則的に肯定の立場をとる通説的見解は,団結権は結社に対する国の不干渉をそのおもな内容とする結社の自由(憲法21条1項)とは質的に異なっており,本来私人間の関係において効果を有するものとして保障されていること,その概念のうちには団結しない権利としての消極的団結権はそもそも含まれていないこと,をその理由としてあげるが,通説的見解の根底にあるのは,労働組合は組織の外部に非組合員を残さず,組織内組合員に対して強力な統制を保持するとき,最もよく労働者利益を擁護・代表しうる,という実質的な判断であったといえよう。とはいえ近年においては,もっぱら労働者の自主的な決断・選択を基礎にした労働組合運動の重要性,労働組合の内部における組合員の市民的自由,組合民主主義の価値などが見直されるようになり,それとともに集団を労働者個人に一方的に優先させる考え方に対しても重大な反省が加えられつつあるのが注目される。
労働基本権
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「団結権」の意味・わかりやすい解説

団結権
だんけつけん

労働者が団結体を結成・運営し、団結活動を行う権利。これは、労働者が団結を通じて具体的な自由を回復することにより、その人間的な生存を確保することをねらいとして、とくに労働者に対してのみ保障された権利である。日本国憲法第28条では、労働者の「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」を保障すると規定し、団体交渉権や争議権とは区別された独立の権利として団結権を保障している(狭義の団結権)。しかし、労働者の諸要求実現のための活動の実態からすると、団結権は、団結体を結成し、団結活動を行い、使用者と団体交渉し、場合によっては争議行為も行うという一連の関連しあった動的な権利の総体としてとらえるべきである。団結権概念をこうした広義の意味ではなく狭義に理解する考え方は、歴史的には争議権のみを取り出して禁止するために生み出されたといえる。団結体は通常は労働組合という形態をとるが、争議団のような一時的なものも含む。また、団結権の保護は労働者と団結体の両方が受ける。団結体はその構成員の数に関係なく平等に保護を受ける。さらに、団結権は労働者の生存権保障をねらいとするものであるから、単に使用者との団体交渉を通じて解決しうる問題に限らず、広く労働者の社会的・経済的地位の向上に役だちうるような活動が保護を受ける。

 ところで、憲法は「結社の自由」(21条)とは別に団結権を保障していることから、団結権は結社の自由以上の内容を含むものと理解されている。具体的には、第一に、「国家からの自由」を含み、国家は原則として立法や警察力により団結権およびその行使を制限したり禁止できない。また、正当な団結権の行使は処罰されない(これを刑事免責といい、労働組合法1条2項はこのことを確認している)。第二に、私人である使用者も団結権の行使を妨害したり禁止してはならない。したがって、たとえば組合活動家に不利益を課すとか、組合の運営に介入するという行為は禁止される。また、正当な団結権の行使に対して損害賠償の請求をすることはできない(これを民事免責といい、労働組合法8条は争議行為についてこのことを確認しているが、団結活動一般について認められる)。なお、団結権が侵害された場合には、裁判所の救済を受けることができるが、訴訟という方法は時間と費用の点で労働者には不適切である。そこで、労働組合法で不当労働行為制度を設け(7条・27条など)、行政機関である労働委員会による簡易・迅速で適切な救済が企図されている。第三に、労働者との関係では、まず団結の外部に対して組織拡大の活動ができる。具体的には団結加入を強制することが認められる。しかし、そのための方法であるユニオン・ショップ協定が団結の拡大のためより組合内少数派を組合から排除するための手段として利用される例がみられることもあって、団結体と労働者の自由の適切な調和のために、その有効性の再検討が問題となっている。また、団結の内部に対しては組織強化のための活動ができ、教育・宣伝活動や、団結秩序を乱した構成員に対する統制処分ができる。しかし、この統制権も無制限ではなく、組合員の思想・信条の自由を犯すことになる行使はできない。

 なお、日本では、労働者でありながら、自衛隊員、警察職員、消防職員、海上保安庁職員、刑事施設職員は、それぞれの関係法令で団結権が否定され、組合結成ができない。

[吉田美喜夫]

『沼田稲次郎著『団結権思想の研究』(1972・勁草書房)』『『沼田稲次郎著作集3 団結権論』(1976・労働旬報社)』『『野村平爾著作集2 団結権と組合活動』(1978・労働旬報社)』

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百科事典マイペディア 「団結権」の意味・わかりやすい解説

団結権【だんけつけん】

労働者が社会的・経済的地位向上のため団結する権利。組合の結成・運営・日常活動,組合への加入の権利のほか,広義には団体交渉権・団体行動権(争議権を含む)をも含む。日本では憲法第28条が団結権の保障を規定しているが,公務員や地方公営企業体職員は団結権を制限され,防衛庁職員・海上保安庁職員・警察職員・消防職員・刑事施設職員は狭義の団結権も剥奪(はくだつ)されている。なお,労働組合法は,不当労働行為禁止によって団結権を保障しようとしている。
→関連項目黄犬契約憲法公共企業体等労働関係法政令201号不当労働行為労働基本権労働組合

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「団結権」の意味・わかりやすい解説

団結権
だんけつけん

労働者が経営者に対し,対等の立場で労働条件の維持・改善を目的とする活動を行うために,労働組合の結成や,これへの加入など自主的に団結する権利。団体交渉権争議権と並んで労働基本権といわれる。日本では憲法 28条「勤労者の団結する権利」で認められ,それに基づいて労働組合法が制定されている。組合結成・加入に対する使用者の報復や妨害などを禁じた不当労働行為制度は,団結権を具体的に保障するために設けられたものであり,またかかる使用者の行為は私法上も違法ないし無効となる。また一般の市民団体に認められていない団結強制 (いわゆるユニオン・ショップ制) が合法とされる点も憲法による団結権保障の効果といえる。団結権は一般私企業の労働者だけでなく,公務員,国営企業・地方公営企業職員にも認められている (ただし団結強制は不可) が,警察官,監獄勤務職員,自衛隊員,消防職員,海上保安庁職員には,職務の特殊性から認められていない。

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世界大百科事典(旧版)内の団結権の言及

【公務員】より

… 他方,高級公務員と下級公務員の間の身分制を廃止し,給与その他の著しい差別を除去するために種々の規定が設けられ,給与は法律で定めた給与準則に付加した俸給表によることになった。また警察と消防職員,国家の機密に関与するもの,その他の特殊の職員を除いて一般の公務員も労働者なみの団結権,団体交渉権を与えられ,現業員は罷業権も認められた。そこで官公庁労働組合が強力な活動を行い,官庁民主化運動が盛り上がった。…

【争議権】より

…憲法28条は,〈勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する〉とし,労働基本権(労働三権ともいい,団結権,団体交渉権,争議権をさす)を保障している。このうち〈その他の団体行動をする権利〉が争議行為をする権利,すなわち争議権をさすと解されている。…

【労働組合法】より

…旧労組法は,搾取と酷使から労働者を保護し,かつ生活水準の向上のため有力な発言権を得るための威信を獲得し,また児童労働のごとき弊害を矯正するに必要な措置を講ずるとのアメリカの方針に沿ったものであり,労働組合運動を苦しめてきた治安維持法および治安警察法は1945年10月15日および11月21日に廃止された。旧労組法は,警察官吏,消防職員および監獄において勤務する者の団結を禁止したものの,原則としてすべての労働者に団結権,団体交渉権および争議権を保障した。前衛政党は労働組合運動を民主化運動,戦争責任追求運動へと指導した。…

※「団結権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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