改訂新版 世界大百科事典 「シリアゲムシ」の意味・わかりやすい解説
シリアゲムシ (挙尾虫)
Panorpa japonica
シリアゲムシ目シリアゲムシ科の昆虫。腹は円筒状で後方の節は細くなっているが,雄の生殖節は大きく,その末端に1対のかぎ状突起がはさみ状についており,いつも腹端部を上へあげている。この姿勢がシリアゲムシと名付けられた由来であり,攻撃のとき,はさみのついたまるい生殖節を頭越しに前に出すようすはサソリを連想させるので英名ではscorpion flyと呼ばれる。ふつう黒色,体長20mmくらいで,頭は細長く下にのびて,その先端に小さなあごがつき,翅は4枚とも同形で13~20mmと長い。翅は透明であるが先端とその内方に黒い帯があり,それに数個の不規則な黒い斑紋が見られるが,黒帯以外の斑紋の現れ方には変化が多い。飛ぶ力は弱く短距離飛んでは静止する。驚いたときには,暗い茂みに入り,また落葉の間に潜ることも多い。幼虫はハバチ類やガ類の幼虫に似ていて,地中にすみ,昆虫の死体などを食べて生活する。終齢幼虫で冬を越し,春に蛹化(ようか)する。成虫は4~5月ころ出現するが,それが産んだ卵から7~9月に次世代の成虫が出る。夏世代の成虫の多くは赤褐色で,翅の帯も細く,ベッコウシリアゲと呼ばれることがある。北海道南端から九州にかけ,低山地の林縁に広く分布するもっともふつうのシリアゲムシである。
シリアゲムシはまたシリアゲムシ科Panorpidaeの総称名で長翅類ともいう。世界に約200種が知られ,日本からは40種以上が記録されている。シリアゲムシとともに分布の広いものにプライアシリアゲP.pryeriがある。胸側,脚,腹部の結合膜など鮮やかな緑黄色の美しい種類で,5~6月ころ山間の渓流沿いに多い。全国に分布するが,北海道では7~8月出現し,分布も局限されていないようだが,九州ではきわめてまれである。
執筆者:宮本 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報