日本大百科全書(ニッポニカ) 「シンクレア」の意味・わかりやすい解説
シンクレア
しんくれあ
Upton Sinclair
(1878―1968)
アメリカの小説家、社会評論家。9月20日ボルティモアに生まれる。15歳から文筆で自活、ニューヨーク市立大学卒業後、コロンビア大学で学ぶかたわら、歴史小説『マナッサス』(1904)を含む6編の小説を発表。社会主義的傾向の長編小説『ジャングル』(1906)で一躍有名になった。この作品はシカゴの缶詰工場の実態を描いた暴露小説で、ベストセラーとなる。その印税収入をニュー・ジャージー州のヘリコン・ホーム・コロニー(一種のアメリカ版「新しき村」)建設に投じたが、計画は失火事故のため1年で挫折(ざせつ)した。1915年カリフォルニアに移り、政治運動に携わり、1934年州知事に立候補したが敗れた。以来100冊に及ぶ小説や評論で社会主義作家として活躍する。『ジャングル』のほか、コロラドの炭鉱ストライキを扱った『石炭王』(1917)、平和主義を説く『ジミー・ヒギンズ』(1919)、石油企業の醜聞を暴いた『オイル!』(1927)、サッコ‐バンゼッティ事件を扱った『ボストン』(1928)さらにラニー・バッドを主人公とする11巻の連作小説(『世界の終わり』『ラニー・バッドの帰還』など)がある。ほかに自叙伝『アメリカの前哨(ぜんしょう)線』(1932)、『自伝』(1962)など。1968年11月25日死去。
[板津由基郷]