多数の人間が集合して,権力や武力によらずに政治的目的を達成するために,持続的に活動を行うことをいう。
政治運動が一般化したのは,権力的地位にない人々が寄り集まって,政治活動を行うことが可能になった近代社会においてである。そこには,幕末・維新の志士による討幕運動のような例も含まれうるが,通常,武力による反乱やクーデタへ移行した活動は,政治運動とは呼ばれない。その意味では,武力によらない政権交代が正統化され,言論や集会による権力批判が制度的に保障された市民社会以降,政治運動は本格的に形成されたとすることができる。
市民社会における政治運動の基本的な形は,政党の形成としてあらわれた。それは,集会や新聞・パンフレットなどによる宣伝と説得を主要な武器とし,選挙民の支持をうることによって権力を獲得し維持することを究極の目的とする人々による政治運動である。そしてその外側には,政党にまではいたらない多くの政治的クラブや集団による限定された目的のさまざまな政治運動があった。
現代社会の政治の大衆化は,新しい型の政治運動をつくりだした。その第1は,大衆運動である。大衆的参政権の実現は,労働者や青年を中心とする大衆の量的な運動の力によって,政党運動を補うという形態を編み出した。大衆運動は,祭儀的な大衆集会によって運動参加者の熱狂的な興奮をかり立て,大衆行進の圧倒的な量によって日常社会の秩序を麻痺させる。ファシズムは,このような大衆運動の力に頼って政権を獲得し,社会主義政党もまたしばしば,議会における非力さを大衆運動に頼って打開しようとし,議会政治に深刻な問題を投げかけた。第三世界諸国においても,強い反植民地ナショナリズムに支えられた大衆運動によって,建国以来の独裁体制を維持した例が多い。
しかし,現代社会が〈豊かな社会〉として安定するに従い,大衆運動はより限定された目的のための圧力集団的な活動として,階層,職業,世代,性,少数民族などの区分によって多様に分化して展開されるようになった。労働者運動もかつてのような反体制運動としての政治的目的を失い,圧力運動に転化しているのが普通である。ここでは,従来の大衆運動の戦術における非合理的・熱狂的な要素は後退し,それに代えて,集団的陳情や請願,広告などの手段が多くなる。また,現代社会における市民参加の波の高まりは,市民運動や住民運動という型の政治運動をも一般化させてきている。これらの運動では,大衆運動のように大衆組織を母体とすることなく,関心や利害のある少数者が問題に応じて有志の集団をつくり,自由に運動を展開するのが特徴的である。そこには,知識社会化に伴う政治知識の大衆的普及と,〈豊かな社会〉化に伴う大衆的なゆとりが反映しているとすることができよう。
戦前,日本の政治運動は,市民社会の未成熟と共同体的基盤の残存,そして治安維持法をはじめとする弾圧法規のために,欧米諸国とは異なる展開をたどらざるをえなかった。政党運動は男子普選の実現後も大衆的底辺を広げることなく,官製の大政翼賛会へと合流していき,反体制運動もきびしい弾圧法規の中でテロリズムに訴えるか,陰謀的な秘密結社の域を大きく出ることができなかった。また,労働組合の組織率が最高時でも8%台にとどまった大衆運動は,大きく発展することなく,侵略的ナショナリズムの高揚の中で,官製の国民運動へと吸収されていった。
戦後の新憲法と民主化は,政治運動の発達についての新しい環境を用意した。政党は国政の中心的位置が与えられ,共産主義政党ははじめて公然と活動の舞台に登場した。また大衆運動の中核である労働者運動は急速に発展し,戦後政治に大きな役割を果たすようになった。経済の高度成長がはじまった1950年代後半から,社会の各分野での組織化が進行し,これらの社会集団による圧力活動が活発に行われるようになった。また,1960年以降には特定の政治問題に対する市民運動が,70年前後からは住民運動が展開されるようになっている。
しかし,こういう戦後の政治運動の発達にも,日本の社会構造や政治文化の特質が色濃く影を落としている。それは,共産党を除く大政党が,いまだに自まえの大衆組織を形成しえていない事実に象徴されている。戦前の共同体からもちこされた集団主義の文化の下で,政党をはじめとする大衆的な政治運動が,既成の社会組織に寄生する形で形成されてきた慣習が,その背景にある。1970年代以降の自発的な政治参加の波の高まりが,こういう構造をどのように変えていくかに,日本の政治運動の展望もまたかかっているといえよう。
→政治参加
執筆者:高畠 通敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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