サッコ‐バンゼッティ事件(読み)さっこばんぜってぃじけん(英語表記)Sacco-Vanzetti Case

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

サッコ‐バンゼッティ事件
さっこばんぜってぃじけん
Sacco-Vanzetti Case

1920年代のアメリカの殺人事件裁判で、政治的でっち上げといわれる。1920年4月、ボストン市郊外の靴工場を数名の強盗が襲い、2人を殺し大金を奪った。3週間後、イタリア移民で靴工のニコラ・サッコと魚行商人のバルトロメオ・バンゼッティとがまず別件で逮捕され、この事件の犯人とされた。彼らはともに無政府主義者、徴兵拒否者であり、拳銃(けんじゅう)を持っていた。またこのころ、司法長官パーマーの赤狩りなど左翼は弾圧され、移民制限が叫ばれていた。翌年5月に裁判が始まり、証言のみで物証不十分のまま、7月に有罪とされた。それは政治信条を超えた多数の人の抗議を呼び起こし、何度か控訴、再審が請求され、さらに25年、自供者が現れたが認められなかった。アメリカ内外で有名人も参加する釈放運動が高まり、執行責任者の知事は委員会に諮ったが、誤審なしとされ、2人は27年8月、電気椅子(いす)に送られた。のち、この問題を扱った多くの芸術作品が生まれた。

 この事件はその後も長く論じられ、1959年にはボストン司法委員会は再審請求を取り上げ、無罪を証した。しかし、61年の条痕(じょうこん)検査ではサッコの拳銃が犯罪に用いられたとされ、彼を有罪とみる者もおり、今日に至るも見解は分かれている。

[長沼秀世]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

サッコ=バンゼッティ事件
サッコ=バンゼッティじけん
Sacco Vanzetti Case

アメリカ,マサチューセッツ州で 1920~27年の7年間にわたって続いた殺人犯裁判。 20年4月 15日,マサチューセッツ州サウスブレイントリーで発生した殺人事件の犯人としてアナーキストのイタリア人移民 N.サッコと B.バンゼッティに嫌疑がかけられ,明白な証拠のないまま,同年5月5日逮捕された。社会主義者と進歩派は冤罪を主張して激しい批判を浴びせ,2人のための大衆デモがアメリカ,ヨーロッパで行われた。しかし,州最高裁判所は再審を許さず,27年4月死刑が宣告され,同年8月処刑された。この2人の容疑者の犯行の証拠が不十分で,むしろその無政府主義的思想が有罪判決の隠された真の理由であったことが指摘され,世論も政治的陰謀性を激しく非難した。 59年4月ボストンの司法委員会は再審請求を取上げ,無罪を立証した。

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