日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェントリ」の意味・わかりやすい解説
ジェントリ
じぇんとり
gentry
イギリスの「ジェントルマン」階層の総称。原義は「生まれのよい人」に由来し、広く貴族をも含めて用いられたが、一般には貴族とヨーマンの中間に位置する身分集団をさす。中世後期に騎士(ナイト)が軍役免除金を支払うことによって軍役奉仕の義務から解放され、地方に土着した中小の地主になったのがジェントリの主体をなす。騎士とともに彼らは大領主たる貴族に対抗しながら王権に接近し、治安判事として地方行政を無給で担当し、また州を代表して下院に選出されるなど、地方社会における名望家として独特の役割を果たすようになった。ジェントリもその内部は、バロネット(准男爵)、ナイト、エスクワイア、ジェントルマンと細分化され、前二者は古い家柄を示す紋章をもち、「サー」の尊称でよばれた。16世紀の宗教改革における修道院解散後の1世紀間が、貴族とヨーマンの衰退をよそに「ジェントリの勃興(ぼっこう)」の時期であったとするトーニーR. H. Tawneyの学説は、第二次世界大戦後のイギリス史学界において「ジェントリ論争」を引き起こした。問題となった彼らの上昇原因はともかくとして、この時期にイギリスの支配社会層の交代がみられ、ジェントリが近代イギリスの担い手として実権を握ったことは疑いえない。時代が下るにつれてジェントリには地主以外に、国教会聖職者、官職保有者、法廷弁護士、内科医などの専門職も含まれるようになり、さらに商工業の分野で富を蓄えたものが土地を購入してジェントリと認められるようになったものもきわめて多くなり、しだいに本来の身分階層的概念は薄れて、ジェントルマンは礼儀正しき教養人の意味に拡大されるに至った。
[今井 宏]
『トーニー著、浜林正夫訳『ジェントリの勃興』(1957・未来社)』