ジャルグチ(読み)じゃるぐち(その他表記)Jarghuchi

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャルグチ」の意味・わかりやすい解説

ジャルグチ
じゃるぐち
Jarghuchi

13、14世紀のモンゴル支配時代に設置された遊牧的官職で、モンゴル・チュルク語で法務関係者をいう。裁判訴訟法廷を意味する語に人を表す接尾辞-chiがついた形。中国文献では「断事官」と訳されたように、刑事・裁判事務にとどまらず、広く民事治安行政などの決裁にも携わった。とくに軍事中心で占領地の統治に関心の薄かった元(げん)朝以前では、遊牧民を対象とする本来的な業務のほか、実質上の属領統治機関をも構成した。たとえば華北管轄の燕京行省(えんけいこうしょう)(燕京行台、中都行台ともいう)の場合、中央派遣のジャルグチたちと現地の漢人軍閥らの合議機関であった。元代では中国人を対象とする諸官庁が新設されたので、モンゴル王族・貴族の訴訟・決裁を専門的に扱うことになり、彼らを一括した大宗正府という漢称の官庁は各部族集団からの利益代表による協議調停機関の性格を帯びた。また各官庁付きの断事官も配属された。

杉山正明

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ジャルグチ」の意味・わかりやすい解説

ジャルグチ (札魯忽赤
)
Jarghuchi

モンゴル帝国,元朝の官職。jarghuはモンゴル語で訴訟,裁判を,またジャルグチはそれを職掌とする人(裁判官)をあらわす。チンギス・ハーンによって創設され,裁判のほか征服した地域の行政をも監督していた。その長官イェケ・ジャルグチ(イェケは大の意)には,モンゴルの諸王が任じられた。元朝時代には,主としてモンゴル人に対する裁判や行政を担当する大宗正府と,各官庁に置かれる断事官に分けられた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ジャルグチ」の解説

ジャルグチ
jarghuchi 札魯忽赤

モンゴル帝国およびの裁判官,検察官漢訳は「断事官」。チンギス・カンのとき設置。職域は多方面にわたり,刑事・訴訟のほかに,国境防備や駅伝事務を司るものもあった。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャルグチ」の意味・わかりやすい解説

ジャルグチ
ǰarghuchi

モンゴル語で裁判官の意。チンギス・ハンのときに設置された中央官制の一つであるが,司法だけでなく行政にも関与した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のジャルグチの言及

【元】より


【制度】
 初期モンゴル帝国の統治機構は多分に粗放なものだったから,それを具体化した官制もきわめて簡単である。中央政府としては,ハーンのオルドに近侍するケシク(宿衛)の隊長がのちの枢密院使(軍政長官)と宰相とを兼任するほか,別に司法長官に相当するジャルグチ(断事官)が加わって構成されるだけであった。地方官制も太祖元年(1206)の制定にかかる千戸制(88功臣をもって95の千戸が任命された)に基づいて,これまた軍民兼領の千戸長Mingghan・百戸長Jaghunがモンゴル系・トルコ系遊牧民の統治を担当するものだった。…

※「ジャルグチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android