改訂新版 世界大百科事典 「ジョチュウギク」の意味・わかりやすい解説
ジョチュウギク (除虫菊)
Dalmatian pyrethrum
Chrysanthemum cinerariaefolium (Trev.) Bocc.
キク科の多年草。シロバナムシヨケギク,また単にムシヨケギクとも呼び,殺虫剤の原料とするために栽培される。原産地はバルカン半島のダルマティア地方。高さ30~60cmで,茎葉に白色の絹毛がある。葉は2~3回羽状に深裂し,裂片は線状でとがる。6月ころ長い花茎を出し,径3cmほどの頭状花を茎の先端に単生する。頭状花は15~20個の白色の舌状花と,多数の黄色の管状花とからなる。日本には明治初年に導入された。1935年ころは3万ha近くの栽培面積があり,世界第1位の産量を誇り,その9割は輸出されて重要な輸出品目であったが,現在は瀬戸内地方に観光見本園的栽培が残るにすぎない。往年の産地は,北海道,広島,岡山,愛媛,和歌山であった。現在ではケニアが世界一の産地となっている。
開花期に頭花を摘みとり,乾燥したものが薬局方の除虫菊である。殺虫成分を約0.8~1.3%含み,粉末を蚊取線香,ノミ取粉,農業用殺虫剤の原料とする。殺虫成分はピレスロイド(ピレトリン)で,ピレトリンⅠおよびⅡ,サイネリンⅠおよびⅡ,ジャスモリンⅠおよびⅡの6種(いずれも液状)が判明している。ピレスロイドは,人間や家畜のような温血動物にはほとんど毒性を示さないが,昆虫類に対しては強力な運動神経麻痺作用を示し,自然界では容易に分解して毒性を失う。このためDDTやBHCなど残留毒性の強い有機塩素系殺虫剤の使用禁止とともに再び脚光をあびるようになった。最近はこれら殺虫成分を化学的に合成し,殺虫剤として利用している。
栽培は,秋の彼岸ころに播種(はしゆ)して,翌年の春の彼岸から6月ころまでに,ムギの畝間などに定植する。収穫は,殺虫成分の含量が最大となる九分咲きから満開のときに行い,千歯扱きで頭花をこきおろして乾燥・調製する。近縁のアカバナムシヨケギクC.coccineum Willd.やコーカシアムシヨケギクC.caucasicum Whn.もピレスロイドを含み,蚊取線香やノミ取粉を作ることができる。しかし,ジョチュウギクに比較して殺虫成分の含量が少ないので,日本ではもっぱら観賞用とされている。
執筆者:星川 清親
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報