俳諧撰集。野坡(やば),利牛,孤屋編。上下2巻。1694年(元禄7)刊。江戸の越後屋の手代であった野坡らが芭蕉に親炙(しんしや)するうち,〈金屛の松の古さよ冬籠〉の句に感じて撰集を思い立ったもので,書名は〈炭だはらといへるは誹なりけり〉という芭蕉の独語による。内容は上巻に,芭蕉の〈むめがゝにのっと日の出る山路かな〉を発句とする歌仙など3歌仙,百韻1巻と春夏の発句150余,下巻は100余の秋冬の発句と4歌仙(うち1歌仙は未満で32句)を収めている。作者は,撰者たちや杉風,桃隣らを中心に,其角や嵐雪の参加も見られる。作風は,《猿蓑》以後の新風を見せたもので,芭蕉の説く軽みが具現され,軽俗枯淡な境地が示されているが,一面平俗化への傾きもはらんでいる。出版当時から反響が大きく,《俳諧七部集》の一つとして後世に大きな影響を与えた。
執筆者:石川 八朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
俳諧撰集(はいかいせんしゅう)。二冊。野坡(やば)、孤屋(こおく)、利牛(りぎゅう)編。1694年(元禄7)刊。「俳諧七部集」の第六集。上巻は歌仙三巻百韻一巻と、春・夏の諸家の発句(ほっく)を収め、下巻には秋・冬の諸家の発句、ついで未完の歌仙一巻(名残(なごり)裏二句まで)と歌仙三巻を収録する。発句は、編者らのほか芭蕉(ばしょう)、其角(きかく)、嵐雪(らんせつ)、桃隣(とうりん)、素龍(そりゅう)、杉風(さんぷう)ら江戸の蕉門俳人を主として、ほかに智月(ちげつ)、去来、許六(きょりく)、支考らの作も収録されている。他門では湖春、露沾(ろせん)、沾徳(せんとく)らの入集(にっしゅう)がみられる。連句のうち、芭蕉、野坡両吟歌仙「むめがゝに」の巻や、芭蕉と編者3名との四吟歌仙「振売の」の巻はとくに優れており、『猿蓑(さるみの)』以後、芭蕉が新しい俳風として求めていた「かるみ」の俳風を具現したものとして評価されている。
[雲英末雄]
『中村俊定校注『芭蕉七部集』(岩波文庫)』
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