日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズメバチ」の意味・わかりやすい解説
スズメバチ
すずめばち / 胡蜂
雀蜂
giant hornet
[学] Vespa mandarinia
昆虫綱膜翅(まくし)目スズメバチ科に属する1種、およびスズメバチ亜科に属するハチの総称で、和名スズメバチは一名オオスズメバチ、大形種の俗称はクマンバチ。
和名スズメバチは、女王の体長40ミリメートルに達する世界最大のスズメバチで、体色は赤褐色に黒い横斑(おうはん)がある。日本全土の平地および低山地帯に分布し、別亜種は中国、インド、東南アジアに広くみられる。土中や大木の空洞に営巣し、巣はほぼ球形で直径40~60センチメートルに達し、5~10巣盤が縦に重ねられ、外側を粗い板状の外被が覆っている。各巣盤は多数の棒状の支柱によって連結され、強化されている。巣は春にただ1頭の女王バチによって創設されるが、その子である働きバチの羽化とともに急速に発達し、晩秋になって数百頭の新女王バチと、ほぼ同数の雄バチを産出する。新女王バチは交尾後に土中などで単独で越冬するが、働きバチと雄バチは越冬することなく年内に死に絶える。巣は1年限りで廃巣となり、再利用することはない。典型的な肉食性のカリバチ(狩り蜂)で、カマキリ、スズメガの幼虫、大形のコガネムシなどを狩って幼虫に与える。とくに秋の新女王バチの生産期には多量のタンパク質を必要とするため、働きバチの集団が他種のスズメバチやミツバチの巣を襲い、数時間の死闘ののち相手側の成虫を全滅させ、巣内の幼虫や蛹(さなぎ)をすべて自分の巣へ運んで食物とする。したがって、日本や東南アジアにおけるミツバチ飼養上の最大の害敵として養蜂(ようほう)家に恐れられている。
[松浦 誠]
分類
スズメバチ亜科は、ヤミスズメバチ属Provespa、クロスズメバチ属Vespula、ホオナガスズメバチ属Dolichovespula、スズメバチ属Vespaの4属からなり、世界中に61種、日本には16種が知られる。巣の材料として朽ち木などの繊維をかみ砕いて唾液(だえき)と混ぜたものを用い、木の枝、樹洞、岩壁、家屋の軒下や屋根裏、土中などに営巣する。いずれの種も、巣は外側を厚い外被で覆い、内側に数個の巣盤を下方に向かって重ね、育房数は200~1万5000となる。巣内には1頭の女王バチと数百から数千の働きバチが集団生活をしている。いずれの種も働きバチは攻撃的で、巣へ近寄ったり、巣に振動を与えると、大顎(おおあご)をかみ合わせてカチカチと威嚇音を発し、尾端の毒針で何度も相手を刺す。
[松浦 誠]
刺毒と処置
毒はハチのなかでもっとも強力で、主成分のキニン類は痛みとともに血圧低下を引き起こすが、ほかにヒスタミン、アセチルコリン、数種のタンパク質分解酵素などを含む。刺された場合、通常の体質の人は、激しい痛みと腫(は)れを伴う一過性の毒作用ですむが、ハチ毒に対して過敏症の人では、手や足などを1か所刺されただけでも、吐き気、悪寒、発熱、じんま疹(しん)などの全身症状とともに、呼吸困難などで重体に陥り、死に至ることもあり、日本では年間に30~40人余の死亡者がある。刺されたときの処置として、巣から一刻も早く遠ざかり、傷口を水で洗う。人によってはアロエや渋柿(しぶがき)の汁を塗ると痛み止めの効果があるが、アンモニア液はまったく効き目がない。ついで氷嚢(ひょうのう)や湿布で冷やしながら、速やかに医師の手当てを受ける。毒力は大形種ほど強いが、キイロスズメバチは近年、都市近郊の新興住宅地に多発し、体は小さいが集団で攻撃するため注意を要する。
[松浦 誠]